声 明
高浜原発運転差止仮処分決定
事実誤認の指摘はあたらない
原子力規制委員会田中俊一委員長は、4月15日の定例記者会見において、高浜原発3・4号機運転差止仮処分決定について、「この裁判の判決文を読む限りにおいては、事実誤認、誤ったことがいっぱい書いてありますので」と述べ、決定を批判しています。安倍首相は、事実誤認があると田中氏が述べていると、国会での答弁でとりあげています。関西電力まで、事実誤認と言い出す状況です。
しかし、以下から明らかなように、誤認しているのは、田中俊一氏や原子力規制委員会の側です。中には、重箱の隅をつつき、些細な誤記につけこんで騒ぎ立てるものや、仮処分決定の指摘とは別のものを持ち出して、誤認しているかのように振る舞うものもありますが、そのような悪質で下品ともいえるやり方は厳に慎むべきです。
仮処分決定は、内容的には関西電力に対する以上に、新規制基準とそれを定めた原子力規制委員会に向けられたものです。新規制基準は不合理であるとの司法の判断を、真面目に正面から受け止め、再稼働のための手続きの一切を止めた上で、新規制基準と原子力規制の在り方について一からの検討を行うべきです。
◆使用済燃料プールの冷却設備の耐震重要度分類について
定例記者会見において、田中俊一氏は、使用済み燃料プールの設備について、「耐震重要度分類で給水設備はBだと書いてありますけれども、これはSクラスです。」「プールの水がなくなるというのは非常に重要なことですから、そうならないようにということで、プール自体も、プールに給水するところも、あるいはプールの水を監視する水位計等も、みんな耐震上はSクラスにしています。」と述べ、仮処分決定が、SクラスであるものをBクラスと誤認していると指摘しています。
仮処分決定の関係個所には、「(関西電力は)使用済み核燃料プールの冷却設備は耐震クラスとしてはBクラスであるが、安全余裕があることからすると実際は基準地震動に対しても十分な耐震安全性を有しているなどと主張している」との記載があります。これは関西電力による裁判での主張をそのまま記載したものですが、実際に、使用済み核燃料プールの冷却設備はBクラスであり、そのことは新規制基準にも明記されています。事実誤認ではありません。
なお、田中俊一氏が指摘する使用済み燃料プールの給水設備は、耐震上はSクラスです。仮処分決定のまとめの部分には、使用済み核燃料プールの給水設備をSクラスにすべき旨の記載がありますが、これが、使用済み核燃料プールの冷却設備とすべき単純な誤記であることは、本文が冷却設備を前提に展開されていることからも明らかです。これは、一読すればわかることですが、そのあたりを承知の上で指摘しているのであれば、非常に悪質な揚げ足取りです。
◆外部電源の耐震重要度分類について
定例記者会見において、田中俊一氏は、「外部電源のところですけれども、外部電源について、SBOを防ぐということで、我々は非常用発電機とか、いわゆる電源車とかバッテリーとか、いろいろな要求をしております。外部電源は商用電源ですからCクラスですけれども、非常用電源についてはSクラスになっています。ですから、ざっと見ただけでも、そういった非常に重要なところの事実誤認がいくつかあるなと思っています。」と述べています。
仮処分決定(P19)には、関西電力の主張として、「ウ 主給水ポンプ、外部電源は発電所の通常運転に必要な設備であって、安全保持のために不可欠なものではないから、基準地震動Ssに対して耐震安全性を要求されていないのに、これを安全上重要な設備とするのは原子力発電所の設計上、各設備に期待されている役割や機能を理解しないものである。」との記載があります。
外部電源については、仮処分決定もCクラスを前提にしており、何ら事実誤認はありません。非常用電源の話を勝手に持ち出しているのは田中俊一氏の側であり、これをなぜ「非常に重要な事実誤認」というのか、意味不明です。
◆入倉レシピと地震の平均像について
定例記者会見において、渡辺安全規制管理官(地震・津波担当)付補佐は、「我々、基準地震動に関しては、特に地震の平均というわけではないと思ってございます。原子力施設の周辺で、地震が起きるメカニズムとか、地質学的な調査をちゃんとやった上で、不確かさも十分に考慮して、敷地において起こり得るような最大級の地震を考えるというものでして…」と述べ、続けて田中俊一氏が、「判決の中では平均でやっているということで、入倉先生の引用がありますけれども、入倉さんはそんなことはありませんということを他で語っているようですので、それも先ほど申し上げた事実誤認ですね、1つの。」と述べています。
仮処分決定には以下の記載があります。「活断層の状況から地震動の強さを推定する方式の提言者である入倉孝次郎教授は、新聞記者の取材に応じて、『基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない。』『私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある』と答えている(甲111)。確かに、証拠(甲225、乙13)によれば、本件原発においても地震の平均像を基礎としてそれに修正を加えることで基準地震動を導き出していることが認められる。」
規制庁担当者は、「基準地震動は地震の平均ではない」と述べていますが、そんなことは当たり前の話であり、原告側も基準地震動が地震の平均だなどとは主張しておらず、仮処分決定にもありません。
入倉レシピと呼ばれる活断層の状況から地震動の強さを推定する方式については、例えば入倉氏による「強震動予測レシピ」に、「『レシピ』は同一の情報が得られれば誰がやっても同じ答えが得られる強震動予測の標準的な方法論を目指したものである。」とあるように、標準的な方法論を目指したものであり、最大級の地震動を導き出すことを目的にしたものではありません。
原告側は、断層の長さなどを長くしたり、アスペリティ位置を変えたりと、地震の発生条件を、揺れが大きくなるよう様々考慮するのは当然のこととしても、地震動を導き出す計算過程で、平均からのばらつきを考慮しないようなやり方をしていることに問題があると指摘しているのです。
なお、入倉氏は、仮処分決定に際して、かつての新聞記事が曲解して使われているとのコメントを発しています。新聞記事のインタビュー内容については訂正していませんが、仮処分決定は、新聞記事のインタビューをそのまま引用しているだけです。
2015.4.19
原子力規制を監視する市民の会(東京新宿区下宮比町3-12明成ビル302)
阪上 武 090-8116-7155
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