事実誤認ではない改訂版<PDFファイル
2015年4月19日
2015年4月28日追加変更
原子力規制を監視する市民の会
【声明】 高浜原発運転差止仮処分決定
事実誤認の指摘はあたらない
原子力規制委員会田中俊一委員長は、4 月 15 日の定例記者会見において、高浜原発3・4号機運転差止仮処分決定について、「この裁判の判決文を読む限りにおいては、事実誤認、誤ったことがいっぱい書いてあります」などと述べ、決定を批判しています。安倍首相は、事実誤認があると田中氏が述べていると、国会での答弁でとりあげています。関西電力まで、事実誤認と言い出す状況です。
しかし、以下から明らかなように、誤認しているのは、田中俊一氏や原子力規制委員会の側です。中には、重箱の隅をつつき、些細な誤記につけこんで騒ぎ立てるものや、仮処分決定の指摘とは別のものを持ち出して、誤認しているかのように振る舞うものもあります。そのような悪質で下品ともいえるやり方は厳に慎むべきです。
仮処分決定は、内容的には関西電力に対する以上に、新規制基準とそれを定めた原子力規制委員会に向けられたものです。新規制基準は不合理であるとの司法の判断を、真面目に正面から受け止め、再稼働のための手続きの一切を止めた上で、新規制基準と原子力規制の在り方について一からの検討を行うべきです。
◆使用済燃料プールの冷却設備の耐震重要度分類について
定例記者会見において、田中俊一氏は、使用済み燃料プールの設備について、「耐震重要度分類で給水設備はBだと書いてありますけれども、これはSクラスです。」「プールの水がなくなるというのは非常に重要なことですから、そうならないようにということで、プール自体も、プールに給水するところも、あるいはプールの水を監視する水位計等も、みんな耐震上はSクラスにしています。」と述べ、仮処分決定が、SクラスであるものをBクラスと誤認していると指摘しています。
仮処分決定の関係個所には、「(関西電力は)使用済み核燃料プールの冷却設備は耐震クラスとしてはBクラスであるが、安全余裕があることからすると実際は基準地震動に対しても十分な耐震安全性を有しているなどと主張している」とあります。これは関西電力による裁判での主張をそのまま記載したものですが、実際に、使用済み核燃料プールの冷却設備はBクラスであり、そのことは新規制基準にも明記されています。事実誤認ではありません。
なお、田中俊一氏が指摘する使用済み燃料プールの給水設備は、耐震上はSクラスです。仮処分決定のまとめの部分には、使用済み核燃料プールの給水設備をSクラスにすべき旨の記載がありますが、これが、使用済み核燃料プールの冷却設備とすべき単純な誤記であることは、本文が冷却設備を前提に展開されていることからも明らかです。これは、一読すればわかることですが、そのあたりを承知の上で指摘しているのであれば、非常に悪質な揚げ足取りです。
◆外部電源の耐震重要度分類について
定例記者会見において、田中俊一氏は、「外部電源のところですけれども、外部電源について、SBOを防ぐということで、我々は非常用発電機とか、いわゆる電源車とかバッテリーとか、いろいろな要求をしております。外部電源は商用電源ですからCクラスですけれども、非常用電源についてはSクラスになっています。ですから、ざっと見ただけでも、そういった非常に重要なところの事実誤認がいくつかあるなと思っています。」と述べています。
仮処分決定(P19)には、関西電力の主張として、「ウ 主給水ポンプ、外部電源は発電所の通常運転に必要な設備であって、安全保持のために不可欠なものではないから、基準地震動Ssに対して耐震安全性を要求されていないのに、これを安全上重要な設備とするのは原子力発電所の設計上、各設備に期待されている役割や機能を理解しないものである。」との記載があります。
外部電源については、仮処分決定もCクラスを前提にしており、何ら事実誤認はありません。非常用電源の話を勝手に持ち出しているのは田中俊一氏の側であり、これをなぜ「非常に重要な事実誤認」というのか、意味不明です。
◆入倉レシピと地震の平均像について
定例記者会見において、渡辺安全規制管理官(地震・津波担当)付補佐は、「我々、基準地震動に関しては、特に地震の平均というわけではないと思ってございます。原子力施設の周辺で、地震が起きるメカニズムとか、地質学的な調査をちゃんとやった上で、不確かさも十分に考慮して、敷地において起こり得るような最大級の地震を考えるというものでして…」と述べ、続けて田中俊一氏が、「判決の中では平均でやっているということで、入倉先生の引用がありますけれども、入倉さんはそんなことはありませんということを他で語っているようですので、それも先ほど申し上げた事実誤認ですね、1つの。」と述べています。
仮処分決定には以下の記載があります。「活断層の状況から地震動の強さを推定する方式の提言者である入倉孝次郎教授は、新聞記者の取材に応じて、『基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない。』『私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある』と答えている(甲111)。確かに、証拠(甲225、乙13)によれば、本件原発においても地震の平均像を基礎としてそれに修正を加えることで基準地震動を導き出していることが認められる。」
入倉レシピは、活断層の状況から地震動の強さを推定する方式であり、断層の位置や面積、アスペリティ(断層中で特に強い揺れを生じる部分)の位置や面積などの諸条件から原発敷地での揺れの程度を導き出す計算式の体系です。入倉氏による論文「強震動予測レシピ」にあるように、「『レシピ』は同一の情報が得られれば誰がやっても同じ答えが得られる強震動予測の標準的な方法論を目指したもの」であり、最大級の地震動を導き出すことを目的にしたものではありません。
計算式の中には、断層面積(破壊面積)から地震の規模に係る地震モーメントという値を導き出す式(入倉・三宅式)のように、世界各地で観測された実際の地震動の平均値にほぼ一致しているものも組み込まれています。平均からのかい離やばらつきは計算式に反映されていません(参考資料参照)。一旦諸条件を設定すると、それによって発生する地震の平均像が導き出されることになりますし、はじめからそれを目的にしたものです。
原発の耐震安全評価では、まず、敷地近傍にあり、原発にもっとも大きな影響を与える活断層について、長さや深さなどの諸条件を設定した上で、入倉レシピに従い検討用地震動を策定します。そのうえで、不確かさを考慮し、断層を長くしたり、浅くするなど、諸条件を原発敷地での揺れが大きくなるように設定し直し、再び地震動を算定して検討用地震動を修正しながら基準地震動を策定します。記者会見で規制庁担当者は、この不確かさの考慮について説明しています。「地震の平均像を基礎としてそれに修正を加えることで基準地震動を導き出している」との決定文の認識に誤認はありません。
そして、上記の不確かさを考慮した場合でも、入倉レシピを用いている限りは、地震動を導き出す計算過程において、平均からのかい離やばらつきが考慮されません。「平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある」と入倉氏が指摘するとおりです。債権者(原告)側は、このようなやり方に問題があると指摘しているのです。
なお、入倉氏は、仮処分決定に際して、かつての新聞記事が曲解して使われているとのコメントを発しています。新聞記事のインタビュー内容については訂正していませんが、仮処分決定は、新聞記事のインタビューをそのまま引用しているだけです。
原子力規制を監視する市民の会 阪上武
090-8116-7155
(参考資料)
入倉論文「特定の活断層を想定した強震動の予測手法 -強震動予測のレシピ-」http://sms.dpri.kyoto-u.ac.jp/irikura/recipe.pdf の19頁の図6(地震モーメントと断層面積(破壊面積)の関係)に、入倉・三宅式(2001)の直線(点線)と世界各地の地震のデータ(緑丸・およそ41個)があり、入倉・三宅式は、ほぼその平均値に一致します。
ersmith1994.pdf の表(976~981頁)の244個の地震データの中から取られており、調べた結果、これら41個のデータは世界各地のデータであることが分かりました。
調査方法は下記に掲載しています。
http://www.jca.apc.org/mihama/ooi/position_jpneq_20140109.pdf