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川内原発火山審査・仮処分決定の矛盾と保安規制審査の問題点

川内原発火山審査・仮処分決定の矛盾と保安規定審査の問題点
予測は困難と認めた規制委が火山ガイドを捻じ曲げて適用した
規制委は中身のない保安規定(火山モニタリング活動)を却下すべき

2015.5.20
原子力規制を監視する市民の会

川内原発運転差止仮処分で、鹿児島地裁は川内原発の再稼働を容認する決定をくだしました。決定には火山審査にかかわる部分だけでも多くの事実誤認があります。また決定にある事実認定は、基準(火山ガイド)は不合理でないとの結論に矛盾し、川内原発の危険性を浮き彫りにするものです。

◆火山ガイドは予測が可能であることが前提◆

火山ガイドの立地評価の原則は、「原子力発電所の運用期間中に火山活動が想定され、それによる設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価できない場合には、原子力発電所の立地は不適と考えられる。」というものです。地震の場合は、過去12~13万年前以降に動いた可能性が否定できない断層が重要施設の直下にあれば、それで立地できないことになりますが、火山の場合は、今後のことを抽象的に問うだけで、過去は問いません。それゆえ、川内原発のように、約3万年前の破局的噴火で火砕流が到達したことが明らか場所での立地に許可が下されようとしているのです。
両者の違いは、地震が予測が不可能であることを前提とし、火山は予測が可能であることを前提としている点にあります。火山の場合、運用期間中の活動可能性が十分小さいと評価された場合でも、火山活動のモニタリングと兆候は把握時の対処方針を条件に付けているのはそのためです。

◆地裁決定の事実認定は火山ガイドの破たんを意味する◆

地裁決定は認定事実として、「原子力規制委員会及び原子力規制庁の認識としても、火山ガイドの策定時においては、破局的噴火の前兆現象を確実に把握でき、その把握から噴火に至るまでの期間が数十年程度あることを前提としていたことがうかがわれるところ、破局的噴火の前兆現象としてどのようなものがあるかという点や、前兆現象が噴火のどれくらい前から把握が可能であるかといった点については、火山学が破局的噴火をいまだ経験していないため、現時点において知見が確立しているとは言えない状況にある。」としています。これは火山ガイドの破たんを意味します。見直しを実施した場合、破局的噴火の予測ができないことを前提とし、過去に火砕流が到達した可能性が確認されれば、それをもって立地不適とすべきです。このような状況であるからこそ、火山学会は火山ガイドの見直しを要求しているのです。川内原発は当然廃炉となります。

◆原子力規制委は火山ガイドをねじ曲げて適用していた◆

では決定はどうやって再稼働を容認する結論に導いたのでしょうか。原子力規制委員会は、噴火の予測は困難であるとの火山学者の指摘を受け入れた後、火山ガイドを見直す代わりに、噴火の時期や規模を正確に予測できなくてもよい、噴火に際しては兆候があるはずで、兆候があれば空振り覚悟で対処させればよい、その判断は規制委が責任を持つなどとと、火山ガイドをねじ曲げて適用しました。地裁決定はこれを是認することにより、九電を勝たせたのです。
しかし、矛盾はなんら解決されていません。そのことは、適合性審査において、火山活動のモニタリングの具体化、兆候と対処を講じるための判断基準の策定、核燃料搬出の方針の策定といった火山ガイドの要求事項が完全に宙に浮いてしまっていることに顕著に表れています。

◆決定には事実誤認があると火山学の専門家が指摘◆

決定に対し、火山噴火予知連会長の藤井敏嗣東大名誉教授は、「(新規制基準には)モニタリングを行うことでカルデラの破局的な噴火を予知できることを暗示するなど、不合理な点があることは火山学会の委員会でもすでに指摘しているとおりだ。また、火山活動による原発への影響の評価について、火山の専門家が詳細な検証や評価に関わったという話は聞いたことがない。」「カルデラ火山の破局的な噴火については、いつ発生するかは分からないものの、火山学者の多くは、間違いなく発生すると考えており、『可能性が十分に小さいとは言えないと考える火山学者が火山学会の多数を占めるものとまでは認められない』とする決定の内容は実態とは逆で、決定では破局的噴火の可能性が十分低いと認定する基準も提示されていない。火山による影響については、今回の判断は、九州電力側の主張をそのまま受け止めた内容で、しっかりとした検討がされていないのではないか。」(NHKの報道)と批判しています。基準は不合理で、火山学者の適合性審査への関与や破局的噴火の可能性について火山学者の認識についも事実誤認があるとしています。
また決定は、九電側の主張を採用する根拠として、中田節也東大地震研教授が火山ガイド策定時の会合で行ったプレゼンテーションなとを用いていますが、当の中田氏は決定に対して、「南九州で巨大噴火が起こらない保証はない。決定の中で、自分もいいように利用された。ひどい決定文だ」(東京新聞2015/5/5付)と述べています。

◆更に厳しい基準での審査の可能性を認めながら今後の社会的合意に逃げている◆

決定は最後の最後に、「地震や火山活動等の自然現象も十分に解明されているものではなく債務者や原子力規制員会が前提としている地震や火山活動に対する理解が実態とかい離している可能性が全くないとは言い切れないし、確率論的安全評価の手法にも不確定な要素が含まれていることは否定できないのであって、債権者らが主張するように更に厳しい基準で原子炉施設の安全性を審査すべきであるという考え方も成り立ち得ないものではない。したがって、今後、原子炉施設について更に厳しい安全性を求めるという社会的合意が形成されたと認められる場合においては、そうした安全性のレベルを基に周辺住民の人格的利益の侵害またはそのおそれの有無を判断すべきこととなるものと考えられる。」としています。であれば差し止めを認てよ、と思わず言いたくなります。地震や火山活動に対する理解が実態とかい離している可能性を認めながら、より厳しい基準の適用については、今後の社会的合意に逃げています。福井地裁決定への世論の支持をみてもより厳しい対応を求める社会的合意は既にあります。差止は認められるべきです。

◆火山ガイドの要求を社内規定文書に書いたことにする異常事態◆

これらについて九電は結局、原子炉設置許可変更申請書に具体的な中身を書き込むことができずに、保安規定の審査に先送りされ、ここにも書き込むことができず、社内規定文書に書き込むとしています。そして、九電は社内規定文書の内容を公開せず、規制委も公開を求めず、審査も何もせずにまもなく許可を下そうという異常な状況となっています。そのようにして、原子力規制委員会は、仮処分決定で明らかになった矛盾にふたをしようとしているのです。規制委員会は保安規定(火山モニタリング活動)の申請を却下すべきです。

原子力規制を監視する市民の会
問合せ:090-8116-7155阪上まで