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みなさまへ

12月14日の午前に巨大噴火問題と六ヶ所再処理施設の火山審査等の件で規制庁と交渉を行いました。交渉には、青森から山田清彦さん、脱原発弁護団から海渡雄一さんと中野宏典さんにご参加いただきました。設定は福島みずほ議員事務所にご尽力いただき、福島みずほ議員にもご参加いただきました。参加されたみなさんお疲れさまでした。

交渉は主に、規制庁による今年3月7日付文書「基本的な考え方」について行われました。原発や核燃料施設の火山審査において基準として用いられる「火山ガイド」は、火砕流など設計対応不可能な火山事象に対して、運用期間中に発生する可能性が十分に小さいことが示されなければ立地不適としています。これに対し「基本的な考え方」は、巨大噴火(「噴出規模としては数十km3程度を超えるような噴火」)については、社会通念によりリスクは容認されるとの前提に立った上で、(1)巨大噴火が差し迫った状態ではないこと、(2)運用期間中に巨大噴火が発生する根拠がないこと、の2点が確認できれば、「運用期間中は巨大噴火の可能性が十分に小さいとみなす」としています。

巨大噴火について、「発生する可能性が小さいことが示されなければ立地不適」すなわち「グレーは黒」から「発生する根拠がないことが確認できればよし」すなわち「グレーは白」へと、判断基準を根本的に転換するものとなっています。実際には、(2)については、そもそも発生を予測することは困難であり、発生する根拠が示されることはないことから、(1)の巨大噴火が差し迫った状態ではないことの確認ができればよいことになります。「運用期間中に発生しない」ことの確認が「差し迫った状況でない」ことの確認に大きく後退したことになります。

規制庁側は、地震津波の審査部門の担当者が対応しました。担当者は、原子力については巨大噴火のリスクを容認したわけではない、審査は従前と変わらず、運用期間中の発生可能性が十分に小さいことを確認しており今後もそのように行う、などと「基本的な考え方」とは異なる内容の回答があり、こちらが文書に即して確認すると言い方を変えるといった具合で、なかなか議論がかみ合わなかったのですが、ポイントは以下の4点だったと思います。

1.従前から同じ判断基準であったとの証拠はなし

「基本的な考え方」は、この間、裁判所による「運用期間中の発生可能性が十分に小さい」とはいえないとの決定が相次ぎ、それでも、破局的噴火のリスクは無視しても社会的に容認されるとの社会通念論により、差止めは免れていたところ、昨年12月に広島高裁により、火山ガイドに即して差止めの決定が出るに至り、作成せざるをえなかったと思われます。与党からは火山ガイドを変えるよう圧力がかかりましたが、規制委は解釈だけで、火山ガイドを無力化することにしたのです。「基本的な考え方」には、更田委員長により火山ガイドの考え方をわかりやすくまとめるよう指示を受けてそうしたと、あるだけです。そのうえで、「従前からそのように規制してきた」と主張しているのです。

しかし、従前の審査書をめくっても、「噴火が差し迫った状態でないことを確認した」などの文言はないし、火山ガイドのどこをどうみても、巨大噴火を他の噴火と区別する文言は見当たりません。交渉でも規制庁側は「従前と変わらない」と繰り返し述べていましたが、証拠を提示するよう求めても提示することはできませんでした。

交渉で規制委側は、審査で確認する内容が同じであることも強調していました。内容は変わっていないが、審査の結果について、これまでは「運用期間中に発生しない」としてきたものが、実のところは「差し迫った状況ではない」ことを確認しただけであった、それを遡って、始めからそうであったことにした、ということかもしれません。いずれにしろ、「差し迫った状況ではない」ことが確認できさえすればよいのかが具体的に問題になります。

2.「差し迫った状況ではない」ことを確認しただけではダメ

交渉で六ヶ所再処理施設の運用期間を聞きました。火砕流に対しては、放射性廃棄物なども避難が必要ですから、40年の操業期間だけではすまないはずです。原燃は80年を想定しているとの回答でした。となると、「差し迫った状況」だけでなく、50年後、80年後にも可能性がないのかが問題になるはずです。そのあたりを問い質すと「差し迫った状況ではない」ことを火山活動のモニタリングによって継続的に確認するからよいのだとの回答がありました。答えに窮して持ち出してきたのがモニタリング(監視)です。

モニタリングについては、九州電力が川内原発周辺の5つのカルデラ火山について、破局的噴火の100年ほど前にマグマの供給率が急増し、それが地表の変化に表れるとの前提で実施しています。しかし、やっていることはGPSデータから山の両側の距離を測っているだけですし、兆候について、九電が根拠にしている論文は、特定の火山についてのもので一般化することはできず、例えマグマの供給率が急増しても、地表面の変化として現れるとは限らないと、規制委の検討会の場で専門家から指摘を受けたものです。

また、火山ガイドの記載でも、モニタリングは「発生する可能性が十分に小さい」との評価の後、別に実施することになっていますし、モニタリングにより、兆候が把握された場合には、原子炉停止だけではなく、核燃料等の搬出を実施することになっています。再処理施設の場合は、放射性廃棄物などの搬出も必要でしょう。何十年もかかる可能性が十分にあります。兆候の把握は、十分な時間的余裕をもって行う必要があることからも、「差し迫った状況ではない」ことを確認するだけでは全く不十分です。

3.リスクを容認する対象噴火を広げた根拠もなし

「基本的な考え方」の問題は、リスクを容認する噴火を勝手に拡大したことにもあります。「基本的な考え方」までの裁判所の決定では、リスクを容認する噴火を、破局的噴火以上としていました。噴出量が100km3以上で、阿蘇カルデラの噴火では、九州が全滅、北海道でも15センチの火山灰、日本中が住めなくなるかもしれないという規模です。「基本的な考え方」の作成に際して、更田委員長も「破局的噴火、いわゆるカルデラ噴火について」改めてまとめるよう指示していました。

ところが規制庁は「基本的な考え方」において、リスクを容認する噴火を拡大し、巨大噴火としたのです。巨大噴火は噴出量で破局的噴火の10分の1の規模となります。被害は破局的噴火よりは小さくなります。きちんと防災しなければならないと火山学者が訴えているレベルの噴火です。

交渉では、なぜ拡大したのか、「数十km3程度」というのはどこから持ってきたものなのかを再三聞きましたが、石渡委員を含めて規制庁内で協議して決めたというだけで、根拠は出てきませんでした。

4.六ヶ所再処理施設の事業変更許可を下すべきではない

リスクを容認する噴火を広げたことにより具体的にひっかかるのが、青森県六ケ所村の六ヶ所再処理施設の火山審査です。施設へは十和田カルデラと八甲田山の巨大噴火により、合わせて4回も火砕流が到達しています。十和田カルデラの巨大噴火により、十和田湖周辺は大きな被害が出るでしょう。しかし日本中が住めなくなるというわけではありません。それよりも、火砕流により、六ヶ所再処理施設の高レベル廃液タンクが破壊されるようなことがあれば、放射能による被害はより甚大なものになるでしょう。それを防ぐのが規制委・規制庁の責務ではないでしょうか。それはリスクを容認してよいとは、それを規制当局自らが率先して行うとは何事でしょうか。

交渉では、従前から同じ判断基準であった証拠とリスクを容認する噴火を「数十km3程度」とした根拠については、改めて提出を求めました。また六ヶ所再処理施設については、このような状況で事業許可を下すことがないよう求めて終わりました。

阪上 武(原子力規制を監視する市民の会)