3月28日(火)の午前に茨城県庁にて、安定ヨウ素剤の配布・備蓄の問題で、県の薬務課と交渉をもち、要請書を手渡しました。交渉には、ひたちなか市、東海村、茨城町から1名ずつ、東京から2名、関西から1名が参加しました。茨城県側は、薬務課技佐の柴田氏、同主任の大井氏、係長の荻野谷氏の3名が出席し、主に柴田氏が対応しました。
要請書は、茨城県内5団体と県外3団体の8団体連名で、要請事項は以下の3点です。
1.保育園・幼稚園、学校、病院、福祉施設など、「避難弱者」の施設のすべてで安定ヨウ素剤を備蓄し、原発事故のときに即座に配布できるようにすること
2.福島原発事故の教訓から、安定ヨウ素剤を事故後直ぐに摂取することが必要であることから、5キロを超える30キロ圏についても事前配布を実施すること
3.独自に事前配布を実施しているひたちなか市に対し、県が抱えている配布用の安定ヨウ素剤を、3歳児未満向けのゼリー状のものを含めて引き渡すこと、また、備蓄用の安定ヨウ素剤について、事前配布に用いることを認めること
◆ひたちなか市への対応について
<子どもたちにゼリー状のヨウ素剤が配布できない異常事態>
ひたちなか市は、PAZ(5キロ圏)だけでなく、UPZ(30キロ圏)を含めた市内全域での安定ヨウ素剤の事前配布を独自に実施しています。これに対し、県が反発し、国費により調達した安定ヨウ素剤のひたちなか市分について、PAZの事前配布向けについては市への引き渡しを拒否し、UPZの備蓄向けについては、事前配布に使わないことを前提で引き渡しているという状況です。
そのため、ひたちなか市は、安定ヨウ素剤を市の予算を使って独自に購入して事前配布を実施しています。しかし、3歳児未満向けのゼリー状のものについては、原発事故防災用に作られたもので市販されておらず、PAZ(5キロ圏)を含めて、子どもたちに配布できないという異常な状況になっています。
交渉では、まず上記の状況が事実であることを確認しました。ひたちなか市分のゼリー状の安定ヨウ素剤については県に届いたばかりで、今日、明日にも備蓄用を引き渡すとのことでしたが、配布用については県で保管するとし、引き渡しを拒否し続けるとのことでした。
市民側は、それでは子どもたちの安全は守れないし人権にもかかわる、誰のための安定ヨウ素剤なのかわかないとし、すぐに引き渡し、また備蓄用についても事前配布に使うことを認めるよう要求しました。
<ひたちなか方式は医師の判断がないと批判>
県がそのような対応をする根拠を聞くと、ひたちなか市のやり方はガイドラインや医療関係の法律に反する旨の説明がありました。具体的には、薬局で薬剤師が問診表を確認し説明した上で配布するというひたちなか方式では医師が関与していない、安定ヨウ素剤の配布にあたっては、医師が配布の適否を判断しなければならない、これは薬剤師にはできないというものでした。
ガイドラインを確認すると、医師による適否の判断についての記載はなく、医師の関与については、「原則として医師による住民への説明会を開催する」「医師等から説明を受ける」とあるだけで、さらに「薬剤師が説明を行う等、薬剤師に医師を補助する協力を求めることも有効である」と、自治体の要請により後から追加された文言からも、薬剤師による説明を否定していません。
<茨城県の配布方式も「例外」と認める>
茨城県が実施している配布方式について確認しましたが、配布を行う説明会の建物の中に医師がいるというだけで、説明するのも問診票を確認するのも薬剤師が行っているということでした。説明も判断も実際には薬剤師が実施しているという点では、ひたちなか市の方式とかわりありません。個別に説明をするという点では、むしろひたちなか方式のほうが優れていると言ってよいのではないでしょうか。
この点を質すと、ひたちなか市方式は「医薬品医療機器法」に「違反する」と言い出しました、「法律に違反することをひたちなか市が自費でやることを国が認めているのか」と聞くと、「法に適さない」と言い直していました。また、茨城県の方式についても、医師が会場にいるだけで、配布の適否の判断を行っているわけではないではない点については、「総括的に判断している」などと苦しい言い訳をしていましたが、最終的に茨城県方式も「例外である」と認めました。ではなぜひたちなか方式の「例外」を認めないのか、住民の安全を優先すれば配布が先ではないか、と質しましたが、ひたちなか市に是正を求めていきたいと繰り返すだけでした。
<背景にある国の姿勢>
茨城県が強気でいる背景に国の姿勢があります。県側は、国(内閣府原子力防災担当と原子力規制庁)とは繰り返し意見交換を行っており、ひたちなか方式ではダメだということで一致していると述べました。この点については国側に直接聞きたいと思います。
◆「避難弱者」の施設への備蓄と配布について
市民側から、保育園・幼稚園、学校、病院、福祉施設など、「避難弱者」の施設での備蓄について、滋賀県や福井県などで、UPZ(30キロ圏)を含めて、備蓄を進めている事例を紹介しました。これに対して、茨城県の回答は、順番に進めなければならず、PAZ(5キロ圏)での住民への配布を優先している、学校などへの「配布」は次のステップで、UPZはさらにその先になるというものでした。
「配布」の前に「備蓄」の話をしていると言うと、PAZは配布が原則であり、学校などの施設に備蓄する場合も一旦配布をしてそれを施設に保管するという流れになる、住民への配布と同様に手続きを踏む必要があり簡単ではない、国(原子力規制庁)が定めたガイドライン(安定ヨウ素剤の配布・服用にあたって)にもそう書いてある旨の説明がありました。
ガイドラインの該当箇所を聞くと、脚注にある「PAZ外からPAZないの事業所や学校に通勤・通学する者に対して、PAZ内の住民と同様の方法で事前配布をすることとし、このための安定ヨウ素剤を事業所や学校等に配備することができる。ただし、この場合においても、一人ずつ事前配布の手続きを行う必要がある」との記載でした。しかし、問題になっているのは通勤・通学者への対応ではなく、「避難弱者」への対応です。市民側から、観点が違うとし、現に他県では取り組みがすすんでいることを再度強調しましたが、茨城県側は、他県のことは知らない、茨城県として順番に進めていくと言うばかりでした。
阪上 武(原子力規制を監視する市民の会)