みなさまへ 長文ご容赦ください。
11月23日~25日の日程で、能登半島地震と原発避難問題をテーマに、原子力防災訓練の監視と能登現地の調査活動を行いました。原子力規制を監視する市民の会とFoE Japanから合わせて7名、柏崎刈羽から2名が参加。現地は珠洲の北野進さんに2日間にわたりご同行・ご案内いただきました。ありがとうございました。
まだまとまりのない状況ですがざっと、問題に感じたことを書き出してみました。各地で原発の稼働・再稼働をとめるための材料にしていただければと思います。
24日の原子力防災訓練は◆オフサイトセンター運営訓練、◆原子力防災用エアテント展開訓練、◆無人機による緊急時モニタリング訓練、◆避難退域時検査訓練、に立会いました。なお、◆船舶を使った避難訓練については、前日の荒天で船の準備ができなかったという理由で中止になりました。立会いはできませんでしたが、◆孤立集落を想定したヘリを使った訓練は実施されました。
24日午後と25日の調査活動は、〇地震被害(志賀町富来地区)、〇被災した放射線防護施設(富来小学校・志賀町総合武道館)、〇地震断層(富来川南岸断層)、〇地震・津波被害(珠洲市宝立町)、〇珠洲原発予定地/地震・水害被害/隆起地形/孤立集落(珠洲市高屋地区)、〇地震・水害被害/孤立集落/隆起地形(珠洲市大谷地区)、〇5.2メートルの隆起地形(輪島市門前町深見漁港)、〇原発から1.5キロで孤立する可能性がある集落(志賀町福浦地区)、〇被災した放射線防護施設(志賀文化センター)を回りました。志賀文化センターについては施設の方に中を詳しくみせていただきました。
原子力防災訓練について、地元団体は、これまでの訓練について能登半島地震を踏まえた反省がなにもなされていないことを問題にし、今年の訓練を中止するよう要望していました。しかし石川県は、住民の参加はなし、住民役を職員が行う形で例年より規模を縮小して訓練を強行しました。
志賀原発周辺で震度7を観測する地震が発生し、志賀原発で放射能を放出する重大事故が発生との想定で、事前に配られた資料には、能登半島地震を踏まえ、孤立集落を想定した複合災害対応訓練も行うとし、放射線防護施設が被災して使えない想定で、原子力防災用エアテントを広げる訓練、モニタリングポストが一部使えない想定で無人航空機を用いたモニタリングを行う訓練なども行うとありました。しかし、監視した結果、能登半島地震の現実から学んでいない、ご都合主義の訓練でした。原子力防災テントや無人機の訓練に至っては、業者の売り込みの場になっていました。
訓練のシナリオ
7:00 志賀町で震度7を観測する地震発生
8:30 高圧系注水ポンプ不可 施設敷地緊急事態 PAZ要支援者の避難 UPZ屋内退避
9:30 低圧系注水ポンプ不可 全面緊急事態 PAZ避難 UPZ屋内退避・避難準備
11:00ごろ 放射能放出 緊急モニタリングによりUPZも一部避難
★孤立集落問題(原発の近傍で孤立集落が生じる想定なし)
訓練監視の一つのポイントは、奥能登の状況が志賀原発周辺で生じる想定をきちんとしているのかどうかでした。訓練は原発のある志賀町において震度7という想定になっています。能登半島地震の際、原発サイトは震度5弱でしたから、それよりも大きい想定をしなければなりません。しかし、訓練のシナリオは、原発の北10キロ弱の富来地区及びさらに北側の奥能登方面で避難が困難となる被害が発生し、原発の近傍及び南側では奥能登ほどの被害はなく、道もすべて通れるという都合のいいものでした。
オフサイトセンターの運用訓練をみていると、地震発生(想定)の7時からすぐの7時10分には、原発から北側の地区の避難先が奥能登から金沢方面に変更されるのですが、原発周辺のPAZ(5キロ圏)については、8時30分の施設敷地緊急事態を受けて8時50分に開かれた最初の対策本部会議でも、道路はすべて通れるとの報告がなされていました。
原発の近傍1.5キロ北側の志賀町福浦地区は海辺の集落ですが、山が海にせり出した地形で、丘の上を走る幹線道路まで少し山道を登らなければなりません。高齢者などは車がないと避難は難しいでしょう。複数のルートはあるのですが、珠洲市高屋地区では能登半島地震で海沿い、山越えの4つのルートすべてが塞がれ、孤立集落となりました。PAZの場合、事故により放射能が放出される(訓練では11時ごろ)までの短時間に避難を終えていなければなりません。
地区は旧福浦小学校が一時避難所となり、そこが放射線防護施設になっているのですが、旧福浦小学校は丘の上の幹線道路沿いに立地しており、そこまでたどり着かなければなりません。また、放射線防護施設は地震により、空気を浄化するための陽圧化装置が動かない可能性があります。動いたとしても収容可能人数は93人で、地区の全員を収容することはできません。ヘリコプターが降りる場所もありません。港はありますが、都合よく船が調達できるのか不明ですし、隆起により港が使えなくなる可能性もあります。
変動地形学者は、富来川南岸断層が原発のすぐ沖の海底まで伸びている可能性を指摘しています。原発敷地付近で、奥能登と同様の揺れと隆起が生じる可能性は十分にあり、そのような想定をしないと意味がないと思われます。
訓練では、孤立集落対策として、原発から25キロ北にある門前高校から住民をヘリで原発の南側に搬送し、そこからバスで退域時検査所に運ぶ訓練が行われました。しかし、能登半島地震では、孤立集落にヘリが行っても降りる場所がないという状況が発生しました。また、集落全体が孤立した場合にヘリの輸送で間に合うのかといった問題があります。
また、原発から9キロほど北にある富来漁港を孤立集落の港とみたて、海上保安庁の船舶で沖合の海上自衛隊船舶に乗り換え、金沢港に搬送する訓練も行われる予定でした。当日は晴天で波も穏やかだったのですが、前日が荒天で、船舶を所定の場所に移動することができず、この訓練は中止となりました。地震により、たとえ船舶が調達できたとしても、隆起により港が使えない可能性が十分にあります。
★全面緊急事態で「屋内退避の徹底」の指示
オフサイトセンターの運営訓練は私たちは施設敷地緊急事態まででしたが、その後、監視を続けた方によると、9:30の全面緊急事態により、屋内退避を徹底するよう指示があったとのことです。しかし能登半島地震では、本震の後も屋内に留まっていた方が、余震や土砂崩れで亡くなったケースがありました。「屋内退避の徹底」が被害を拡大する可能性はないのか。
★放射線防護施設が使えない(原子力防災用テントの訓練は業者による売り込みの場に)
避難が困難な要支援者のために設置されているのが放射線防護施設です。病院や介護施設、学校、公民館、体育館などの一部の部屋を気密化し、高性能フィルターをつけた空気浄化装置を通した空気を送って圧力を高くし、外から汚染された空気が入らないようにしています(「陽圧化装置」といいます)。特にPAZ(5キロ圏)では、通常の避難所で屋内退避をしても、非常に高い線量の被ばくが強いられるので、陽圧化装置を付けた放射線防護施設に避難しなければなりません。
ところが能登半島地震では、志賀原発周辺にある20の放射線防護施設のうち、PAZにある3つの施設すべてとUPZにある一部施設が使えませんでした。PAZにある特別養護老人ホームとUPZにある町立富来病院はスプリンクラー稼働による浸水で区画への侵入ができませんでした。PAZにある志賀町総合武道館は施設の損傷により使用不可、外から見学しましたが、窓が割れ、窓枠が歪んでいたり、基礎と道路に隙間ができていたりしました。PAZにある旧福浦小学校は施設の立入りはできますが、陽圧化装置が正常に作動しない可能性があるとのことです。
原発から7キロほどの志賀町文化ホールは、放射線防護施設と陽圧化装置まで案内してもらったのですが、3階の3部屋の区画が気密扉で囲われ、窓側には鉛の入ったカーテンがありました。陽圧化装置はダクトとフィルターと操作パネルがありました。フィルターは3つあり、中央は高性能のへパフィルターとなっていました。案内にあたった施設の方は、問題なく使えるはずだと言っていましたが、別の部屋は壁にひび割れがあり、施設そのものの耐震性について調査中とのことでした。
電源は非常用発電機を使うとのことですが、エレベーターは使えないので、要支援者を3階までどうやって運ぶのか、また、いざというとき、誰が操作するのか決まっていないと聞きましたのでそこも問題かと思いました。100人の収容が可能で、3日間生活するための水や食料を備蓄しているということですが、孤立により100人を超える人が来た場合にどうするのか、また、3日間を超えて避難が必要になる場合にどうするのかといった問題があります。
訓練では、放射線防護施設が使えない前提で、原子力防災エアーテントの展開訓練が行われました。放射線防護施設が使えない前提は、能登半島地震の現実に即したものだと感じました。訓練の会場に行くと、小学校の体育館の中で、2つの業者がエアーテントを膨らませるデモンストレーションを行っていました。30人ほど収容できるテントが瞬く間にできあがりました。そこに、簡易的な陽圧化装置を接続して、発電機で起こした電気で浄化した空気を送り続けると説明がありました。業者に話を聞くと、聞いてもいないのにもう一方の業者の製品の弱点を話はじめる始末で、現場は売り込みの場と化していました。
そこに馳浩知事がやってきて、軽い調子で業者に質問。「これはいくらなの?」「テントが120万円、陽圧化装置が180万円、合わせて300万円です」「あっちは500万円だね。安いね」職員に「買ったらどお?」志賀町の職員「うちはもう買いました」…とても聞いていられない会話でした。500万円の方は三菱重工が噛んでいて、全国10自治体、25件の受注が既にあると言っていました。別に東芝も参入しているようです。放射線防護施設の陽圧化装置は1か所2億円ですので、確かに安いのですが、果たしてこれで代わりになるのか?フィルターの性能は?鉛のカーテンの代わりは?陽圧化装置の保管場所の耐震性は?収容人数が少ないのではないか?どこにどうやって運ぶのか?疑問は尽きません。
★無人機によるモニタリング訓練…ドローン業者によるデモンストレーションの場
日本製で農薬散布に使われている無人小型ヘリコプター、ラトビア製の無人小型飛行機、中国製のドローンの実演が行われましたが、ラトビア製の無人機について、ドローン業者はイスラエル空軍が受注していることを堂々と話していました。ラトビアの会社は軍事用ドローンの製造会社でした。身の毛がよだちました。馳浩知事は、中国製のドローンが気に入らないようで、なぜ日本製を使わないのか、データが抜き取られるのではないか、人は乗れないのかなどと的外れの質問を繰り返していました。
★退域時検査(これで被ばくを見つけるのはとても無理)
退域時検査については、すべて内閣府のマニュアル通りにやっていると説明していました。車の外からモニタリングゲートでタイヤの測定、その後、ガイガーカウンターでタイヤとワイパーの測定、基準を超えれば代表者の測定、代表者が基準を超えれば全員の測定という手順でした。車の除染はウェットティシュによるふき取りだけでした。人の測定は、別室で、服も靴もそのままでガイガーカウンターを外からあてて、基準を超えれば除染して再測定という流れですが、訓練は、手の平か手の甲のどちらかで基準を超え、その部分だけをウェットティシュでふき取り、もう一度測って基準を下回れば通過証がもらえるというものでした。
車のタイヤとワイパーだけの測定で中の人の全員の被ばくを判断するのはやはり無理がありますし、人の測定にしても、内部被ばくの状況はとても把握できないだろうし、また、服や靴が汚染されている場合には、測定にあたる人も被ばくを強いられる流れになっていると感じました。
阪上 武(原子力規制を監視する市民の会)
★原発周辺で震度7の地震が発生しているのにPAZ(5キロ圏)では孤立集落が生じない想定…現実には原発から1.5キロ地点に孤立する可能性がある集落がある。
★海路避難…当日は晴天で波も穏やかだったが、前日の荒天で船の移動ができず、結局訓練は中止に
★空路避難…原発北側の孤立地区からヘリで原発南側に搬送する訓練が行われたが、孤立集落にヘリが下りる場所が確保できないというのが能hが使用不能となった場合の原子力防災用エアテント展開訓練…原発関連企業の売り込みの場だった。ガンマ線の遮o蔽はできない。ひとつのテントに30人ほどしか入れない。
★原発北側の地域の避難先を奥能登から金沢方面に変更…原発の近傍を通って避難しなければならない
★UPZは屋内退避のよびかけ…能登半島地震では屋内にいた方が余震や土砂崩れなどで亡くなったケースが多い
★退域時検査は車を測ってふき取り除染。車で値を超えたら乗っている人の測定を行うが、訓練では手のひらか手の甲のどちらかだけに反応。濡れティッシュで拭いたら線量が下がり退出。これで被ばくを見つけることはできない。
★被災した放射線防護施設…陽圧化装置は立派だが、誰がどのタイミングで操作するのか不明だった。隣の部屋は壁にひび割れが多数。施設の健全性に疑問がありこれを使うかどうかは検討中
★5.2メートルの隆起で漁港まるごと干上がっていた…原発があれば建屋が傾き、取水口が干上がることに
★変動地形学者が能登半島地震で連動の可能性を指摘する富来川南岸断層…北陸電によるボーリング調査が行われていた。変動地形学者はこれが原発のすぐ沖の海底まで伸びている可能性を指摘する