能登半島地震から1年

みなさまへ

原子力規制委員会の屋内退避に関する最終報告書案
https://www.da.nra.go.jp/view/NRA100007905?contents=NRA100007905-002-002#pdf=NRA100007905-002-002
について、昨日からニュースになっていますね。原発が立地する5県が、原発事故と自然災害が同時に起きる「複合災害」への備えが不十分などとして懸念を示していることがアンケート調査でわかったとのニュースも流れています。
https://news.yahoo.co.jp/articles/45f67c570f9941200e7eeb2896d7f565d35b61f2

◆複合災害時の屋内退避について

複合災害について最終報告書案は

【結論】原災指針は複合災害にも対応できる基本的な考え方を示しており、複合災害への対応に関して原災指針の考え方を変更する必要はない。

【解説】自然災害と原子力災害が同時に発生する複合災害に対しても原災指針は対応できるのかという問いがある。すなわち、屋内退避に関して言えば、家屋が倒壊すれば屋内退避はできないのではないかという問いである。…(省略)…原子力災害時には自然災害に対する安全の確保を優先するという基本的な考え方の下で、自宅での屋内退避ができない場合は近隣の指定避難所等での屋内退避を行い、地震による倒壊等の理由で指定避難所等での屋内退避も難しい場合には、UPZ 外への避難をすることとなる。

とあります。自宅で屋内退避、倒壊したら指定避難所で屋内退避、倒壊したら避難、指針には何も書いていないけど自分で判断して動けというなんとも無責任なものです。能登半島地震や熊本地震では、本震では倒壊しなくとも、自宅に居続けた方が余震での倒壊や山崩れなどにより亡くなったケースが多くみられました。

また、昨年11月24日に行われた石川県での志賀原発の避難訓練では、全面緊急事態の後、オフサイトセンターからUPZ(5~30キロ圏)に対して、「屋内退避の徹底」が呼びかけられました。屋内退避の徹底により命が失われる危険があります。

今年1月20日に、珠洲市から北野さんを招いて実施した「能登半島地震と原発複合災害」についての政府交渉でもこのことが問題になりました。内閣府原子力防災担当の回答は、「石川県の避難訓練は、津波もなく、自宅で屋内退避でも特に問題がないという想定で行われた」というものでした。でも実際に地震が起きたときにはそんなことは皆目わからないはずです。誰が同判断するのか問いただしましたが、回答はありませんでした。

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実は、原災指針を変更する必要はないことは、検討の結果そうなったのではなく、屋内退避の検討チームの検討開始時から決まっていました。以下の〇の二つ目です。はじめから検討する気などなかったのです。

原子力災害時の屋内退避に関する論点 令和6年2月14日 原子力規制庁
https://www.nra.go.jp/data/000468888.pdf

〇能登半島地震のような家屋倒壊が多数発生する自然災害と原子力災害との複合災害に対しては、防災基本計画にあるとおり、人命最優先の観点から自然災害に対する安全が確保された後に、原子力災害に対応することが基本である。

〇複合災害への対応について、原子力災害対策指針では、屋内退避に関する具体的な記述がないものの、住民等の被ばく線量を合理的に達成できる限り低くすると同時に、被ばくを直接の要因としない健康等への影響を抑えるとの基本的な考え方を示していることから、これを変更する必要はない。

〇原災指針は、全面緊急事態に至った時点で、PAZ内で放射線被ばくによる重篤な確定的影響を回避し又は最小化するための避難を実施するとともに、UPZ内で確率的影響のリスクを低減するための屋内退避を実施し、放射性物質の放出後には空間放射線量率等から判断して避難や一時移転を行うことを基本としている。

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◆PAZで孤立集落が発生した場合~「放射線による重篤な確定的影響」は避けられない

1月20日の交渉で別に問題になったのは、事前避難が必要とされるPAZ(5キロ圏)において、孤立集落が発生した場合の対応です。「屋内退避の検討チーム」ははじめから検討から除外しています。石川県の避難訓練でもそうした想定はありません。

緊急事態において、PAZでは、屋内退避や安定ヨウ素剤の摂取などの防護措置を取っても、被ばくにより不妊、白血球減少、脱毛、白内障など「重篤な確定的影響」が避けられないことから、放射能が放出される前に避難することになっています。

各地の緊急時対応によると、地震や津波で孤立した場合、道路開通に努める一方で時間がかかる場合はヘリや船舶による避難を行うことになっています。しかし、短時間での道路開通は見込めず、ヘリや船舶による避難も困難というのが能登半島地震の教訓です。そうなるとフィルターで空気を浄化する設備のある放射線防護施設に逃げ込むしかありません。

しかし、施設は「避難の実施により健康リスクが高まる避難行動要支援者」を対象としており、孤立集落の全員を収容することはできません。放射線防護施設がない集落もあります。また、能登半島地震で実際に生じたように、地震による損傷等により、放射線防護施設が使えないおそれもあります。

交渉において内閣府は、PAZで孤立集落が生じた場合は道路の開通に努める、時間がかかる場合は放射線防護施設を含む施設に屋内退避し、状況に応じて空路や海路の避難も実施すると回答しました。収容人数が足りないのではと指摘すると、内閣府は、そうした場合は一般の指定避難所に屋内退避することになると回答しました。それでは「重篤な確定的影響」を回避することはできません。規制庁にそれでよいのかと問うと、指針(原子力災害対策指針)は、原則は避難だが、避難ができない場合は屋内退避となっていると回答しました。

では指針には何と書かれているのでしょうか。PAZの屋内退避について、以下の記載があります。
https://www.nra.go.jp/data/000473921.pdf

〇本指針の目的は…緊急事態における原子力施設周辺の住民等に対する放射線の重篤な確定的影響を回避し又は最小化するため、及び確率的影響のリスクを低減するための防護措置を確実なものとすることにある。

〇PAZとは、急速に進展する事故においても放射線被ばくによる重篤な確定的影響を回避し又は最小化するため、EAZ(引用者注:緊急事態の進展)に応じて、即時避難を実施する等、通常の運転及び停止中の放射性物質の放出量とは異なる水準で放射性物質が放出される前の段階から予防的に防護措置を準備する区域である。

指針は、事前避難が必要な区域をPAZと定め、原発の場合それを5キロ圏としています。5キロとしたのは、指針策定の際に行われた評価により、セシウムで100テラベクレルの放射能放出という、福島第一原発事故の100分の1レベルの規模の小さい事故想定によって、原発から5キロ圏では、コンクリート構造物への屋内退避や安定ヨウ素剤摂取といった防護措置を施したとしても、全身100ミリ、甲状腺50ミリシーベルトというIAEA(国際原子力機関)の甘すぎる判断基準をも超えてしまう結果が出たことによります。放射能が出る前に何が何でも避難しなければならないのです。

◆各地の状況

女川原発

原発から3キロにある石巻市寄磯浜地区は原発から伸びた小さな半島の先に位置します。原発のすぐ脇を通って避難するしかありませんが、東日本震災のとき、その避難路が塞がれて孤立し、津波のために船も出せず、唯一電気が使えた女川原発の敷地内の建物に徒歩で避難するしかありませんでした。複合災害が発生し事前避難ができない場合、放射線防護施設に逃げ込むしかありませんが、収容人数は100人で、約200人の寄磯浜地区の全員を収容することはできません。

志賀原発

原発から1・5キロの志賀町福浦地区は海辺の集落ですが、山が海にせり出した地形で、丘の上を走る幹線道路まで少し山道を登らなければならず、高齢者などは車がないと避難は難しい状況です。複数のルートはありますが、奥能登の被災状況から、いずれも塞がれる可能性は十分にあります。地区は旧福浦小学校が放射線防護施設になっていますが、丘の上の幹線道路沿いに立地しており、そこまでたどり着かなければなりません。地区全員を収容することはできません。

高浜原発

福井県が「孤立予想集落」を県内に46集落想定していました(福井新聞2024.11.14)が、福井エリアの原発群のPAZやUPZ(5~30キロ圏)の集落も含まれます。高浜原発PAZ内の高浜町音無地区、神野津地区、日引地区は、いずれも一本道の脇や終点に位置し、「孤立予想集落」に含まれます。それぞれに放射線防護施設はありますが、収容は限られています。

美浜原発

美浜原発の近傍でPAZ内の美浜町丹生地区、白木地区は、避難路が原発の脇を通ります。白木地区には放射線防護施設がありません。また、丹生地区で船舶による避難の港に指定された「丹生漁港物揚場」は市民団体の調査により、実際には使えないことが確認されています。

柏崎刈羽原発

原発は豪雪地域に立地しており、雪害によりPAZ全域において避難が困難となる可能性があります。「柏崎刈羽地域の緊急時対応(現時点案)」には、避難行動要支援者を放射線防護施設へ収容とあり、注として「※一部の屋内退避施設は万一集落が孤立化した場合にも活用」とあります。しかし、放射線防護施設の収容人数は合わせても2,217人にすぎず、2万人を超えるPAZ全域に対応することはとてもできません。

◆指針によってもPAZは避難または放射線防護施設に屋内退避

交渉において規制庁が、原則は避難だが屋内退避もあると述べたのは、指針の屋内退避の措置についての以下の部分によります。
https://www.nra.go.jp/data/000473921.pdf

〇PAZにおいては、原則として…避難を実施するが、避難よりも屋内退避が優先される場合に(屋内退避を)実施する必要がある。(括弧書きは引用者)

しかしこれをもって、一般の指定避難所での屋内退避を許容するとは言い難いと思います。「避難よりも屋内退避が優先される場合」とはどんな場合か、指針の避難の措置の項には以下の記載があります。
https://www.nra.go.jp/data/000473921.pdf

〇避難を実施することにより健康リスクが高まると判断される者については、安全に避難が実施できる準備が整うまで、近隣の、放射線防護対策を講じた施設、放射線の遮蔽効果や気密性の高い建物等に一時的に屋内退避させるなどの措置が必要である。

〇避難が遅れた住民等や病院、介護施設等に在所している等により早期の避難が困難である住民等が一時的に屋内退避できる施設となるよう…気密性の向上等の放射線防護対策を講じておくことも必要である。

そのために、PAZ内及び周辺に国がお金を出して放射線防護施設を設置しているのです。すなわち指針によっても、PAZは事前避難、避難できない場合は放射線防護施設に屋内退避である。一般の指定避難所での屋内退避が余儀なくされるような避難計画は失格であり、指針に違反とみなすべきだと思います。