屋内退避により被ばくを強要する原災指針改定に反対する~屋内退避では十分な被ばく低減効果が期待できない~
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原子力規制委員会は屋内退避の運用について、6月18日に原子力災害対策指針の改定案をまとめ、パブリック・コメントを経て9月には改定しようとしています。特徴は、これまでは避難するまでの一時的な防護措置として位置づけられていた「屋内退避」を、無条件に実施すべき防護措置とすることにあります。「避難のための屋内退避」から「避難ではなく屋内退避」への転換です。屋内に閉じ込め、住民に被ばくを強要する許しがたいものです。
しかも、屋内退避中の防護措置をなにもしないのです。マスクも防護服も配布しない、安定ヨウ素剤の配布・服用もなし、住民の被ばく管理もなし、それどころか一時的な外出を許し、それを必要な防護措置と言い張る始末です。屋内の放射能が増えますが、測定すらしません。
原発から5km圏のPAZについて、改定案は、放射能放出前の即時避難の原則は変わりませんが、自然災害との複合災害時に道路の閉鎖等により避難ができない場合に、自宅などでの屋内退避を許容しています。
100mSvを超える被ばくのおそれがあります。能登半島地震により、複合災害時には現状の避難計画では指針が要求する被ばく防護ができず、屋内退避すらできない現実が突きつけられました。柏崎刈羽原発周辺は豪雪地帯です。豪雪により身動きがとれなくなるだけでなく、天候が回復した後も、道路の除雪を待つ間、長期間にわたり避難ができない恐れがあります。これに対して規制委は、避難計画の見直しではなく、指針を緩めて、住民に深刻な被ばくを強いるやり方を選択しようとしているのです。これも許しがたいことです。
ところで屋内退避による被ばく低減効果はどれほどのものなのでしょうか。原子力規制委員会は説明会の場などで被ばく低減効果を強調します。しかし、規制委が設置した屋内退避に関する検討チームの会合に提出された資料や内閣府原子力防災担当が実施した被ばく防護についての報告書などを丹念にみると、そうではないことが明らかになります。
原子力災害対策指針改正案
https://www.da.nra.go.jp/view/NRA100010843?contents=NRA100010843-004-009
◆原子力規制委員会の評価では木造家屋でわずか25%減
昨年、規制委が設置し、指針改定に関わる検討を行った屋内退避に関する検討チームの資料には、規制委が2014年にIAEA(国際原子力機関)やEPA(米国環境保護庁)などの知見を参考に行った被ばく線量の試算があります。屋内退避により、全身の被ばく線量(実効線量)について、木造家屋で概ね25%減、コンクリート建屋で概ね50%減との結果でした。コンクリート建屋でも半分しか減らないのです(図)。
屋内退避の運用に関する検討チーム第1回会合資料「屋内退避について」
https://www.da.nra.go.jp/view/NRA100001253?contents=NRA100001253-002-003
◆内閣府(原子力防災担当)の評価では非コンクリート造で半減
内閣府(原子力防災担当)は規制庁とエネ庁の混成で、避難計画の策定支援を行っていますが、ここが規制委とは別に行った評価(2023年「原子力災害時の防護措置-放射線防護対策が講じられた施設等への屋内退避-」)では、屋内退避により、コンクリート造では81%減、非コンクリート造で55%減となっています。非コンクリート造には、木造家屋だけでなく、鉄骨造も含まれます。2021年の暫定評価では、木造家屋では内部被ばくの低減効果が33%しかないとの評価結果が大きく報道され、問題になりました。2023年の報告書で低減効果が増したのは、放射性ヨウ素が壁面の水分に吸着する効果を考慮したためとあります。それでも非コンクリート造では半分程度しか低減しないことになります。
原子力災害時の防護措置-放射線防護対策が講じられた施設等への屋内退避-
https://www8.cao.go.jp/genshiryoku_bousai/shiryou/pdf/02_okunai_zantei_r5.pdf
◆屋内の線量が屋外よりも高くなる
内閣府の評価には、「放射性プルーム通過後の換気による被ばく線量低減効果」という評価が含まれており、プルーム(放射能雲)通過後はなるべく早く換気した方が被ばく低減効果が高いとの結果が示されています。プルーム通過後は屋外よりも屋内の方が線量が高くなるのです。
改定指針は屋内退避中の外出を許していますが、放射能が付着したほこりが入ることにより内部被ばくの危険性が高まることは、福島第一原発事故において、掃除機にたまったほこりの測定結果から明らかになっています。屋内退避を止めて避難に切り替えなければなりません。
プルームが収まらずに屋内の線量があがるケースもあります。改定指針には「プルームが長時間又は断続的に到来し屋内退避場所への屋外大気の流入により被ばく低減効果が失われた懸念がある場合等には、国と地方公共団体と緊密な連携を行いながら、避難への切替えを判断し指示することになる」との文言があります。しかし、避難計画では屋内退避の室内の放射能測定や住民の個人の被ばくを管理することはしません。プルームが通過しても次がいつ発生するかは予測がつきません。屋内退避を継続することにより、深刻な被ばくが強いられるおそれがあります。
◆放射性防護対策施設は万能ではない
内閣府の報告書には放射線防護対策施設(図:報告書にある模式図)の評価が含まれています。施設には外気をフィルタで放射能を低減して室内に送る陽圧化装置が付いています。コンクリート造で陽圧化装置がある場合、被ばくは92%低減する結果となっています。報告書の副題に-放射線防護対策が講じられた施設等への屋内退避-とあるように、放射線防護対策施設の効果をアピールするものになっています。
施設は原発から10km圏で国がお金を出して整備されてきました。新潟県では豪雪により集落が孤立する可能性があるとして、範囲を30km圏に拡大しています。しかし、現状では、避難ができない要支援者を収容する想定をしているため、集落が孤立した場合には収容人数が圧倒的に足りないという問題があります。そのうえ、施設は万能ではないのです。
まず、施設が効果を発揮するのはコンクリート造で陽圧化装置がうまく作動した場合に限られます。地震により壁にき裂が入る、窓枠がずれるなどして室内の圧力が保てなくなると機能が失われます。能登半島地震では、志賀原発近傍のいくつかの施設で装置の機能が確認できませんでした。また、柏崎刈羽原発の近傍の宮川地区にある放射線対策防護施設は鉄骨造であり、低減効果は66%でしかありません。いま各地で、体育館内にエア・テントを張る簡易的な陽圧化装置の導入が検討されていますが、これについても効果は限定的であると思われます。
◆放射性防護対策施設のフィルタでは放射性希ガスが除去できずかえって危ない
さらに、施設のフィルタでは放射性希ガスが除去できないという問題があります。屋内退避の検討チームは、安全装置が機能した場合の原発事故シミュレーションを実施しました。セシウムの放出量で福島第一原発事故の1千万分の1という規模の小さいものでした。それでも、原発近傍では100mSvを超える被ばくの可能性があるとの結果となりました。原因はフィルタ付ベントのベント実施時に放出される放射性希ガスでした(下表:TBqテラベクレル=兆ベクレル)。
規制委2014年試算(緊急時の被ばく線量及び防護措置の効果の試算について)
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11118514/www.nsr.go.jp/data/000047953.pdf
規制委2025年試算
https://www.da.nra.go.jp/view/NRA100005285?contents=NRA100005285-002-003
フィルタ付ベントというのは、原発事故時に放射能を含むガスを意図的に放出するための装置で、フィルタを通すことにより少しでも被ばくを減らそうとするものです。しかし、放射性希ガスはフィルタではとれません。ベント実施時に大量の放射性希ガスが放出され、それが原発近傍住民に深刻な被ばくをもたらすのです。放射線防護対策施設に設置されたフィルタでもとれません、それどころか、フィルタに外気を積極的に取り込むため、一般の施設よりもかえって被ばくの度合いが高くなることが内閣府の報告書には記されています。かえって危ないのです。屋内退避では十分な被ばく低減効果は期待できません。
2025年8月18日
東京都新宿区下宮比町3-12-302
原子力規制を監視する市民の会
福島老朽原発を考える会

