屋内退避では内部被ばくは防げない
原発の避難計画に実効性なし
参考資料:原子力災害発生時の防災措置-放射線防護対策が講じられた施設等への屋内退避-について[暫定版](令和2年3月)内閣府(原子力防災担当)/日本原子力研究開発機構 原子力緊急時支援・研修センター
https://www8.cao.go.jp/genshiryoku_bousai/pdf/02_okunai_zantei_r.pdf
◆コロナ対策で原子力防災・避難計画は見直しが必要
コロナ禍において、さらに豪雨災害や台風襲来が続く中で、感染症対策と原発の避難計画との両立が求められています。避難の時に感染者と感染疑いのある人とそれ以外の人を分ける、移動中も避難先でも感染症対策が必要で、避難先では一人当たりの面積を増やさなければならず、バスの台数や避難先を増やす対策も必要です。ホテルなども確保しなければなりません。
◆原子力防災・避難計画とコロナ感染症対策は両立しない
しかし、現実的には不可能ですし、各自治体は風水害対策を優先しなければならず、対応は進んでいません。女川原発、柏崎刈羽原発、東海第二原発など東日本の沸騰水型原発は、再稼働に向けて地元合意が問題になっていますが、原子力防災・避難計画の欠陥を具体的に問題にして、再稼働を阻止しましょう。
◆政府は避難よりも屋内退避を進めようとしている
いま新たに浮上しているのが屋内退避をめぐる問題です。原発で重大事故が発生した場合、原発から5キロ圏内では事前の避難が求められています。30キロ圏内も避難指示が出る可能性があります。しかし、高齢者や疾病を抱えている方など、避難が困難な方が多くいます。それに、風水害や地震などの複合災害により、避難経路が絶たれる場合があります。政府は「屋内退避が安全への第1歩!!」とし、避難よりも屋内退避に力を入れ、被ばくを防げると宣伝しています。
◆屋内退避は内部被ばくを防ぐことはできない~内閣府の新試算により明らかに
ところが、内閣府原子力防災担当と原子力機構が連名でこの3月に出した屋内退避についての新試算レポートにより、屋内退避では内部被ばくを防ぐことができないことが明らかになりました。8月30日付東京新聞のこちら特報部で報じられました。
◆新試算の結論は「陽圧化」により被ばくを9割以上低減できるというものだが
新試算レポートの結論は、「屋内退避による被ばく線量の低減効果を評価した結果、陽圧化した鉄筋コンクリート造建屋に屋内退避することによって、9割以上低減できること等が分かりました」というものです。「陽圧化」は、フィルタを設置した吸入装置を使って建屋の内部に空気を送り込み、建屋内の圧力を高めて放射性物質の侵入を低減するものです。1施設で2億円かかるといわれています。
◆「陽圧化」でない自然換気では内部被ばくの低減効果は約3割に過ぎない
原発事故直後の被ばくで心配されるのが、放射性ヨウ素による内部被ばくです。内部被ばく線量に限った評価結果をみると、屋外滞在時の内部被ばく線量を1とした場合、自然換気では約3割減の0.67となっています。
すなわち、屋内退避では、「陽圧化」でなければ3割程度しか低減効果がないということになります。新試算レポート本文中にも「陽圧化しない場合(自然換気)では3割強の低減にとどまっています。」との記載があります。
◆新試算レポートでは高気密住宅を前提にしている…現実には合わない
内部被ばくについては、浮遊する放射性物質そのものが建物に入り、吸入することによって引き起こされるので、壁の材料ではなく、壁の隙間によって決まる「気密性」に依存します。新試算レポートでは、気密性のパラメータとして、平成11年の次世代省エネルギー基準の北海道、青森、岩手、秋田で用いる値を使っています。「高気密」を条件としているのです。
◆一般家屋にいる避難困難者の内部被ばくは避けられない
原発の5キロ圏内にある病院や福祉施設において、「陽圧化」の工事が行われています。既に完了している地域もあります。そうした施設ではなく、在宅で高齢者や疾病を抱えている方もいるでしょう。また、5キロ圏の外側では、病院や福祉施設でも「陽圧化」は行われていません。高気密でない家屋の場合、内部被ばくの低減効果は3割よりもさらに小さいと思われます。屋内退避では内部被ばくを防ぐことはできないのです。
◆国の指針の記載は事実とは違うことがわかった
福島原発事故前からある国の指針では、屋内退避による内部被ばく低減効果について、米国環境庁の試算をIAEAがまとめた数値を用いており、「通常の換気率の建物に屋内退避すると、甲状腺内部被ばくは4分の1から10分の1に低減できる」と記されています。新試算レポートでは、これが事実とは違うことが明らかになったのです。
これは全国の原発で問題になることです。古い知見に基づく原子力防災・避難計画は抜本的な見直しが必要です。
生活協同組合パルシステム東京の助成により作成しています。郵便振替00140-5-44967原子力規制を監視する市民の会