みなさまへ(拡散希望)
8月30日に行われた原子力規制委員会において、老朽炉の新たな審査(長期施設管理計画の審査)の審査基準等が承認されました(石渡委員はもとの法改定に反対との理由で反対)。パブコメに対する回答についても承認されました。問題提起をしていた原子炉圧力容器の中性子照射脆化について、現状の審査の問題についても回答があります。いくつかピックアップしてコメントしてみました。
電気協会の規格の古さ、圧力容器のクラッドを評価しない理由、加速照射試験が現実を反映しない問題、高浜4号の電気ケーブル劣化による制御棒落下事故、そもそも40年ルールを炉規法から撤廃することの問題などについても回答がありますのでぜひご検討ください。(阪上 武)
https://www.nra.go.jp/data/000446607.pdf
◆監視試験カプセルの取出し時期について高経年化に対応した規定がない
<意見>
・監視試験片を取り出す時期を明示すべきである。
・運転開始30年を超える原発については、少なくとも10年以内ごとに、母材、溶接部、熱影響部の監視試験片を取り出し、試験を行うべきである。
・JEAC4201-2007に書かれている監視試験片の取り出しの時期は、40年を超えた原発に対応していない。
・JEAC4201-2007は、古すぎ、改定が必要であるのにもかかわらず、そのまま使われている。
<意見>
高経年化検討チームの会合において、事業者は監視試験カプセルの取出しを、暦年ではなく照射量に応じたものにすることを要求しました。現状(運転期間延長認可運用ガイド)では、「運転開始後 30 年を経過する日から 10 年以内のできるだけ遅い時期」「運転開始後 40 年を経過する日から 10 年以内の適切な評価が実施できる時期」に、監視試験カプセルを取り出し試験を行うことを要求しています。事業者はガイドのこの要求を削除し、電気協会の規格「原子炉構造材の監視試験方法」JEAC4201 を採用するように求めました。
規制委側はこれに応じ、新たな審査書案 15 頁に、「3一般社団法人日本電気協会「原子炉構造材の監視試験方法」(JEAC4201)等に基づき、運転を想定する期間において劣化を評価できる適切な時期に監視試験を実施する方針が示され、同方針に基づき長期施設管理計画の期間中に実施する必要がある監視試験に関する措置が具体的に定められていること。」と記載しました。
現在審査で用いられているのは、福島第一原発事故前の 2007 年に策定された JEAC4201-2007ですが、事業者のプレゼン資料にはその JEAC4201-2007 にある定格負荷相当年数による指標の表が掲載されています。それによると、…最小カプセル数は4個、取り出し時期は1)3年、2)6年、3)15 年、4)相当運転期間、の4回などとなっています。相当運転期間として推奨されているのは定格負荷相当年数で 32年です。稼働率 80%を想定した場合、定格負荷相当年数の32年は、暦年で40年に相当します。この規格は設計寿命40年を想定してつくられています。60年超運転に対応することはできません。
<規制委の回答>
JEAC4201-2007は長期監視試験計画として相当運転期間(特にことわりのない限り32EFPY)を超えて運転を行う場合の監視試験計画を規定しており、審査基準Ⅱ.3.③に規定しているとおり、「運転を想定する期間において劣化を評価できる適切な時期に監視試験を実施する方針が示され、同方針に基づき長期施設管理計画の期間中に実施する必要がある監視試験に関する措置が具体的に定められていること」が審査基準の要件であり、長期施設管理計画において監視試験に関する措置が具体的に定められているかは、審査において確認することになります。
<コメント>
規制委回答は、JEAC4201-2007において、相当運転期間は特にことわりのない限り32EFPY(定格負荷相当年数で32年。稼働率 80%では定格負荷相当年数32年は暦年で40年に相当する)であるとしており、規格が寿命40年を想定していることを認めている。「(規格は)相当運転期間(特にことわりのない限り32EFPY)を超えて運転を行う場合の監視試験計画を規定して」いるともあるが、具体的な中身の説明がない。「『長期施設管理計画の期間中に実施する必要がある監視試験に関する措置が具体的に定められていること』が審査基準の要件」というが、現状の審査において「監視試験に関する措置が具体的に定められて」いないにもかかわらず、運転期間延長審査に合格しているものがあり、検証が必要。
◆監視試験片が足りない問題
<意見>
中性子照射脆化について、設計時の想定を超える長期運転により、監視試験片が足りなくなる問題が生じている。今年5月23日の参議院連合審査会の場で、川内原発1号炉では、運転開始時に6つ入れた監視試験片のカプセルのうち、既に5つが取り出されていること、東海第二原発では運転開始時に4つ入れた監視試験カプセルすべてが既に取り出されたこと、東海第二原発については再生試験片を入れたが、熱影響部については幅5ミリほどしかなく、事業者(ATENA)から、再生試験片を作成するのは困難との報告を受けていたことが明らかになった。東海第二原発には、現状で母材の再生試験片しか入っていない。(引用者注:実際は「残存試験片」)川内原発1号炉は残り1カプセルだが、これの取出し時期について、九州電力は明確な計画を示していない。高経年化した原発の安全性を確保するために、運転開始30年以降も、母材、溶接金属、熱影響部のそれぞれについて、試験及び評価を継続的に行う必要がある。そのことを審査基準の要求事項に明記したうえで、監視試験片のカプセルの不足によりそれができない場合は不合格とすべきである。東海第二原発は運転期間延長認可を取消すべきである。川内原発1号炉についても運転期間延長認可をすべきではない。
<規制委の回答>
監視試験については、技術基準規則解釈第22条において、日本電気協会「原子炉構造材の監視試験方法(JEAC4201)」に「別記―6日本電気協会「原子炉構造材の監視試験方法(JEAC4201)」の適用に当たって」の要件を付したものにより実施することを規定しています。同規格に基づき使用済監視試験片を再装荷すること、同規格附属書Cに規定された方法で監視試験片の再生を実施することは認められています。 いずれにせよ、規制基準への適合を立証するのは事業者であり、仮に監視試験片が再生できない等の理由により適切な劣化評価が行えない場合は、規制基準に適合していることが立証できないことになります。
<コメント>
東海第二原発は運転開始時の監視試験片はすべて取り出しており、試験で2つに割れた残存試験片を入れてあるだけである。ここから監視試験片を作成する技術は確立しておらず、基準や規格もない。運転期間延長認可は見切り発車である。回答は、「仮に監視試験片が再生できない等の理由により適切な劣化評価が行えない場合は、規制基準に適合していることが立証できないことになります。」とし、見切り発車であることを認めている。事業者は、技術が確立するまで残存試験片の取出しを引き延ばすおそれがある。取出し計画を具体的に示せない現状で、不合格にすべきである。