みなさまへ<9月21日追加と訂正>

原発の火山灰濃度規制強化の件で、9月20日の原子力規制委員会定例会合において、規則等の一部改正案が承認され、一か月のパブリック・コメント期間に入りました。

パブリック・コメントはここから
https://www.nsr.go.jp/procedure/public_comment/20170921_04.html
https://www.nsr.go.jp/procedure/public_comment/20170921_03.html

原子力規制委員会提出資料
https://www.nsr.go.jp/data/000203731.pdf
https://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/kisei/00000270.html

<火山灰濃度基準が従来の100倍規模に>

原発の火山影響評価で用いる火山灰濃度について、富士宝永噴火のシミュレーションなどの新知見により、現状で用いられている数値が過小評価であることが明らかになり、専門家を交えた検討チームでの検討を経て、規制委・規制庁は、7月19日の「基本的考え方」において、濃度基準を従来の100倍規模に引き上げることを決めていました。

<現状では対応できず全電源喪失の危険>

濃度が100倍規模であがると、現状では対応できず、非常用ディーゼル発電機のフィルタの目詰まりにより全電源喪失に至る可能性があります。また、現状で電力会社は、2台ある非常用ディーセル発電機を片方ずつ止めて交換を繰り返すことを前提としていました。これは、単一故障の仮定を要求する基準に反します。

<猶予期間をもうけるべきではない>

よって、私たちは、既に許可済みの原発や運転中の原発について、直ちに運転を止めるよう求めてきました。今回の規則案については、改定後約1年間の猶予期間を設けることになっていることとしています。これではその間の安全性が守られないことになります。

<風向きの不確実性が考慮されない抜け道>

また今回の改定のうち、火山影響評価ガイドの改定案によれば、火山灰濃度の算出方法として、①降灰量(厚さ)から推定する手法、②数値シミュレーションから推定する手法の二つがあり、そのどちらでもよいということになっています。①は粒径に係らず同時に落下する想定で保守性が見込まれ、②は風向きなど気象条件で保守性が見込まれているから、という理屈です。

東海第二原発の審査をみても明らかなように、火山灰の降灰量や濃度に最も敏感に影響するのは風向きです。この問題の出発点が、富士宝永噴火のシミュレーションについて新知見を採用することであることからも、「基本的考え方」にある規制庁の試算では、原発方向の風向きを前提としたことからしても、風向きの不確実さを考慮に入れ、原発方向の風向きを用いるシミュレーションを必須とすべきです。今回の規則改定はそれを避ける抜け道が用意されています。

①の方法では、降灰量から火山灰濃度を算出します。降灰量にもシミュレーションが採用されています。

東電は柏崎刈羽原発の審査で、原発方向の風向きを採用し、降灰量35センチになりました。原電の東海第二は、月別平年値で23センチのところ、原発方向では49センチとなりました。資料を見ていただくとわかるように、風向きのほんのわずかの違いが大きく影響することがわかります。審査の結果、申請時の20センチを改めて、降灰量50センチとすることになりました。

東海第二原発適合性審査原電提出資料
以下の114ページ
https://www.nsr.go.jp/data/000194491.pdf

kazamuki

これに対し、九電や関電は不確実さを考慮せず、風向きは原発方向ではなく、月別平年値を採用しています。その結果、九電は、桜島薩摩噴火という大規模噴火よりも大きい噴火規模6の噴火を採用しながら、降灰量はわずか15センチですし、関電の若狭の原発群は10センチにすぎません。もし原発方向の風向きを採用すれば50センチ近くになるでしょう。

層厚で月別平年値を用いたシミュレーション結果を採用し、濃度で①のやり方を採用した場合、風向きの不確かさが全く考慮されません。

また、②の数値シミュレーションを用いた方法ですが、火山影響評価ガイド改定案をみると、風向きは「1年で最も原子力発電所敷地に対して影響のある月を抽出し、一定風を設定する」とあります。その先の注釈5には「不確実さの考慮」について記載がありますが、対象は総噴出量や噴火継続時間などで、風向は含まれていません。

規制庁が7月19日の基本的考え方で示した試算では、数値シミュレーションの入力値を「モニタリング地点に向かう一定風」とし、原発方向の風向きを前提にしていましたが、これとも異なります。②の方式についても、風向きの不確かさが考慮されないことになります。

<降灰量(厚さ)についても再評価が必要>

降灰量の風向きの不確実さの考慮については、現状では事業者の裁量になっていますが、必須事項として要求すべきものです。降灰量は建物や設備が水を含んだ火山灰の重みに耐えられるかという評価にもかかわってきます。濃度だけでなく、降灰量(厚さ)についても再検討、再評価を求めなければなりません。

<パブリック・コメント事例>

(例)総論/1年の猶予期間を設けるべきではない。現状で新しい基準に対応できていない原発を止め、新しい基準の適合性が確認できない限り、稼働を認めるべきではない。

(例)火山影響評価ガイド/気中降下火砕物濃度推定方法については、降灰量から推定する手法と数値シミュレーションにより推定する方法があるが、両方のやり方で行い、より厳しい方を採用すべき。また、数値シミュレーションにより推定する方法においては、気象データについても不確実さを考慮し、原発方向の風向きについても検討するよう要求すべき。

(例)火山影響評価ガイド/降灰量の評価についても、気象データの不確実さを考慮し、原発方向の風向きについても検討するよう要求すべき。、

阪上 武(原子力規制を監視する市民の会)