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◆県民健康調査検討会が因果関係を否定する報告をまとめようとしています

福島県県民健康調査検討委員会の甲状腺検査評価部会が6月3日に開いた会合において、甲状腺検査本格検査(検査2回目)結果に対する部会まとめ(案)が提示されました。

「現時点において、甲状腺検査本格検査(検査2回目)に発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない。」というのが結論です。7月8日に設定された親委員会の検討委員会で承認しようとしています。

しかし、判断の根拠となるデータに恣意的な取り扱いがされているなど、さまざまな疑問があります。ぜひ以下をご覧ください。

FFTV:福島の甲状腺がんはいま~どうなっている?因果関係を否定する報告書
ゲスト:白石草さん(Our Planet TV)

◆被ばくとの因果関係を否定するためにデータの整理の仕方を変えた

甲状腺検査本格検査(検査2回目)では、71人の子どもたちに甲状腺がんが見つかっています。まとめ案は、「本格検査(検査2回目)における甲状腺がん発見率は、先行検査よりもやや低いものの、依然として数十倍高かった。」とし、甲状腺がんの多発を認めています。そのうえで、地域別の発見率を検討し、線量との関係を検討しています。

その結果「地域別の悪性ないし悪性疑いの発見率について、先行検査で地域の差はみられなかったが、性、年齢等を考慮せずに単純に比較した場合に、本格検査(検査2回目)においては、避難区域等13市町村、中通り、浜通り、会津地方の順に高かった。」としています。福島県県民健康調査において実施した個人の行動に基づく線量評価(基本調査)では、避難区域等13市町村、中通り、浜通り(避難区域を除く)、会津地方の順で高いことが明らかになっています。線量が高い順に発見率も高かったわけですから、被ばくとの因果関係は明確です。

ところが、まとめ案は、基本調査は外部被ばくの評価であるという理由でこれを採用しません。その代わり、国連科学委員会(UNSCEAR)による甲状腺被ばくの地域別の推計を持ち出します。この推計に対し、誰がどのようなデータを提供したのかは不明です。

それに従うと、20~25ミリグレイの中程度の被ばくをした群の発見率が高く、それよりも高い線量では発見率が下がり、被ばく線量が高ければ高いほど発見率が高いという関係にはなっていないことから、因果関係はないとばっさり切り捨てているのです。

福島第一原発事故直後の被ばく状況については、内部被ばく調査は1080人だけで打ち切られ、避難所における検査でも、基準が13,000カウントから10万カウントに引き上げられた上に、内部被ばくを調べる検査がなくなり、記録も残されませんでした。このような状況ですから、被ばく線量は、個人の行動に基づく線量から推測するしかないはずです。

<資料>
部会まとめ案(県民健康調査検討委員会甲状腺評価部会第12回資料)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/330479.pdf
県民健康調査検討委員会
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai.html
県民健康調査検討委員会甲状腺検討部会
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-b.html

◆市町村ごとのざっくりしたデータでの考察は困難

以下がまとめ案に添付された被ばく線量と甲状腺がんの発見率についてのグラフです。被ばく線量のところで、国連科学委員会(UNSCEAR)による市町村ごとの推計値を使っています。20ミリグレイ以下、20~25ミリグレイ、25~30ミリグレイ、30ミリグレイ以上の4つの区分けがあります。ここに福島県内の全市町村が割り振られることになりますが、実際には人口が特に多い市の値が影響します。20~25ミリグレイは郡山市、25~30ミリグレイは福島市、30ミリグレイ以上はいわき市の値でほぼ決まってしまいます。

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<資料>
市町村別UNSCEAR推計甲状腺吸収線量と悪性ないし悪性疑い発見率との関連(第12回部会)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/330129.pdf

内部被ばくの評価に際しては、食品からの摂取が問題になりますが、国連科学委員会(UNSCEAR)の推計では、福島県内の全自治体で同じ値を使っています。いわき市の値が高くなっているのは、主に放射性ヨウ素を含む放射能雲(プルーム)通過に際しての吸入によるものです。確かに、いわき市は事故直後にプルームが多く通過したとされています。しかし、県内で最も広く、海から山まで複雑で多様な地形の中で、県内最大の34万人が住む状況で、その全員が、高い線量の被ばくをしたとの前提に立つというのは現実的なのでしょうか。

いわき市での本格検査での甲状腺がんまたはがん疑いは5人ですが、人口が多いために発見率を計算すると低い値となり、これが30ミリグレイ以上の発見率を押し下げています。先行検査における甲状腺がんまたはがん疑いは24人でした。先行検査で多く見つかったことも影響しているのではないでしょうか。いずれにしろ、この値でもって因果関係を否定するのは問題があると思います。

◆先行検査で用いた4つの地域分けによる検討から因果関係は明らか

避難区域等13市町村、中通り、浜通り(避難区域を除く)、会津地方の4つの地域に分けた整理は先行検査において、県民健康調査検討委員会が行った整理の仕方です。疫学調査において、途中で地域の区分けの方法を変えるというのは普通行われません。内部ではなく外部被ばくの推計に基づくものだからといいいますが、それでは先行検査でそのような整理をした説明がつきません。

検討会がこの整理の仕方を嫌う理由は、検討委員会に提出された資料からグラフを作成すると明らかになります。それが以下です。<「先行調査及び本格検査(検査2回目)の結果概要」に記載の数値(がんまたは疑いの人数/一次検査受検人数)>

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会津地方、浜通り、中通り、避難区域と、線量の低い順に並べると、先行検査ではわからなかった関連が、本格検査では明確に表れています。線量が高いほど発見率も高く、素人目にも因果関係が明確になるのです。

また、本格検査で甲状腺がんまたはがん疑いとなった71名の内、35名は、基本調査による線量評価を受けていて、その分布が公表されています。これと、基本調査全体の線量の分布と比較することによっても線量ごとの発見率が推察できます。この場合も、線量が高いほど発見率が高いことが明らかになります。<がんまたは疑いのうち基本調査を提出した人数(「本格検査(検査2回目)の結果概要」に記載の数値)/基本調査全体の人数(「基本調査の実施状況について」に記載の数値)>

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<資料>
本格検査(検査2回目)結果概要
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/311591.pdf
先行調査結果概要
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/219703.pdf
基本調査の実施状況について
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/238767.pdf

◆「過剰診断論」では2回目以降の検査ではほとんどがんは見つからないはず

国や県や学者らは、甲状腺がんの多発は、あくまで被ばく影響ではなく、将来発病にいたらないがんまで見つけてしまう「過剰診断」によるものだと主張しています。しかし「過剰診断」である根拠はなにも示されていません。

逆に、2回目の検査で71人に新たに甲状腺がんが発見されたことは、これを否定する根拠となるものです。将来発病しないものも含めて検査によって見つけてしまうことが多発に見える、というのであれば、1回目の検査ですべて見つけてしまい、2回目以降ではほとんど見つからないはずです。

◆甲状腺検査の案内でデメリットを強調し検査を躊躇させようとしている

それでも県民調査検討会は過剰診断論に乗り、甲状腺検査の縮小を図ろうと目論んでいます。県民に向けた甲状腺検査の案内に、デメリットを並べた文言を加えようとしているのです。

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甲状腺検査のお知らせ文改訂案より

…デメリットとしては、一生気づかずに過ごすかもしれない無害の甲状腺がんを診断・治療する可能性や、治療に伴う合併症が発生する可能性、結節やのう胞が発見されることにより不安になるなどの心への影響が考えられます。…

…受診されるかどうかはご本人(未成年の方はご本人と保護者)のご希望によりますので、検査の内容と意義をご理解していただいて、受診を希望されるかどうか、ご返信にてお知らせください。…
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<資料>
甲状腺検査のお知らせ文改定案(第12回部会)
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/330480.pdf

これにより、検査を躊躇させ、自主的に検査から遠ざけようとしているのです。非常に悪質なやり方です。これに対しては、甲状腺がんの患者や福島のみなさんからも批判の声が上がっています。因果関係を否定する動きに反対しましょう。検査の縮小ではなく拡大を求めていきましょう。