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4月10日(月)に行われた原発GX法案に関する政府交渉について報告させていただきます。40年ルールの撤廃に反対する署名(87,000筆)の提出を行ったあと、資源エネルギー庁、原子力規制庁、内閣府(原子力基本法に関わる部署)と交渉を持ちました。交渉には衆議院から山崎誠議員、阿部知子議員が、参議院から水野素子議員が出席、オンラインで80名あまりの方が参加しました。 (原子力規制を監視する市民の会 阪上 武)

◆資源エネルギー庁◆

今回の法改定により、運転期間制限(40ルール)が原子力規制委員会が所管する原子炉等規制法から資源エネルギー庁が所管する電気事業法に移り、40年から60年に運転期間を延長する審査を経産省エネ庁が行うことになりますが、その場合の審査基準は何なのか?具体的に説明するよう阿部議員が求めました。しかしエネ庁の回答は、法令にある4項目(平和利用に資する、規制委の認可を受けている、安定供給に資する、法令順守する)をあげただけでした。詳細は決まっていない、安全上の問題については規制委が別に行う審査によるとの回答でした。

◆原子力規制庁◆

◎運転期間の定めを原子炉等規制法から撤廃する問題

はじめに市民側から問題意識の説明がありました。

運転期間制限(40年ルール)を原子炉等規制法から電気事業法に移すことについて、原子力規制委員会は、60年超の規制が「創設」されるので、規制の緩和ではなく拡充であるとしている。しかし実際には、安全規制としての運転期間制限を原子炉等規制法から撤廃するとの大緩和を行ったために60年超の規制を行わざるをえなかっただけである。

現状では、老朽炉の安全規制は、運転期間制限と10年毎の審査の2本立てになっている、これを、10年毎の審査だけを制限なしにやることにすることになり、安全規制としての運転期間制限を撤廃するという点は、どうみても規制の拡充ではなく大幅緩和だ。

市民側 運転期間の定めについて、規制委山中委員長は令和2年の規制委見解を繰り返し持ち出して「利用政策の判断だ」と説明しているが、2012年に炉規法に40年ルールが制定されたときには、利用政策ではなく安全規制として定められたのが事実ではないか。岸田首相も国会で「安全上の観点で定められた」と答弁している。

規制庁 2012年当時の国会で、さまざまな観点から議論された上で定められた。安全上の観点からも利用政策の観点からも議論があった。

市民側 当時、内閣官房が立法趣旨を説明した文書を、最近規制委が公開したが、そこには「安全上のリスクを低減するために運転期間を制限する」と明確に書いてある。安全規制だからこそ、電気事業法ではなく、炉規法に規定したのではないか。

規制庁 炉規法の運転期間の定めは安全規制ではない。

市民側 「安全上のリスクを低減する」のが安全規制ではないというのはとても納得できない。

規制庁 制定当時、利用政策としての議論も安全上の観点からの議論もあった。前者について、利用と規制の切り分けをはっきりさせるために、原子炉等規制法から電気事業法に移すことにした。

市民側 後者についてはどうするのか?

規制庁 電気事業法に基づく審査でカバーされる。

市民側 安全上のリスクを低減するための審査をエネ庁がやると言うのか?エネ庁はさきほどそれはやらない、規制委にお任せと言っていたではないか。いい加減なことを言わないで欲しい。

◎特別点検で見つけられなかった経年劣化による事故…高浜4号機の制御棒落下事故から明らかになったこと

関電高浜4号機で今年1月に制御棒1本が落下する事故が発生しました。関電は、事故の原因は、制御棒を支えていた装置のコイルを流れる電流が切れたため、その原因は、電気ケーブルに別の電気ケーブルが乗っかり引っ張られ、そのためにはんだ付け部分で絶縁したためだと説明しています。

関電は、電気ケーブルは原発が設置された40年前から引っ張られた状態になっており、初期の施工不良のせいだとしています。しかしなぜ40年も経ってはじめて事故に至ったのでしょうか。はんだ付け部分での劣化が40年かけて進み、最終的に絶縁したという可能性があります。その場合、初期の施工不良に経年劣化が重なって発生した事故といえるでしょう。それはそれで立派な経年劣化ではないでしょうか。

関電は、経年劣化というのは、健全なものが時間をかけて劣化した場合に使うものなので、今回の事象は、経年劣化ではないといいます。そんな理屈で現実から目をそらすのは間違いでしょう。この点、交渉で規制庁に、関電と同じ考えか聞きましたが、規制庁は、これはこれで経年劣化だと認めました。

問題は、なぜこれがこれまで見つからなかったのか、ということです。高浜4号機は、昨年、40年目の運転期間延長審査の前段で行われる特別点検という劣化に特化した点検を行い、異常がないことを確認したばかりでした。規制庁は、見つからなかったのは、今回起きた事象が、運転期間延長審査において対象とする高経年化事象に入っていなかったからだと説明します。高経年化の審査において考慮すべき事象はこれとこれとこれ、という風にはじめから狭く決めているのです。

規制委は、今頃になって慌てて老朽原発の規制をどのようにすべきかを検討する会合を持っていますが、先週の規制委員会で、中間報告案が報告された際に山中委員長は、「わからなかった劣化がわかった場合にそれをどのように制度に取り入れるのか、記載を追加して欲しい」と注文を出しました。しかし、わからなかった劣化がわかるのはどんな時でしょうか。事故のときです。今回は制御棒1本の落下で済み、無事に自動停止しましたが、見つからなかった劣化による事故が、放射能を大量に放出する重大事故となる可能性があります。

規制委は、何年たっても審査により安全確保はできるといいます。しかし高浜4号機の例からもそれが無理であることは明らかです。高浜4号機の場合も、はんだ付け部の検査など、原因究明に欠かせない作業が行われていません。にもかかわらず、規制委は3月の運転再開を容認してしまいました。このような規制委に、問題を抱えて止めなければならない老朽炉が審査にかかったとき、規制委はそれを見つけて原子炉を止めることができるとはとても思えません。

また、今回の高浜4号機の電気ケーブルの劣化は、原発が運転しているかいないかに関わらず進むものです。停止期間中は運転期間から除く対応も間違っています。10年毎の審査だけに頼るのではなく、安全規制としての運転期間制限を活用すべきです。原子炉等規制法から撤廃する理由はありません。

◆内閣府(原子力基本法関係)◆

今国会にかかっている原発推進GX法案は2つあります、ひとつがGX推進法案、もう一つがGX脱炭素電源法案です。後者は原発束ね法案ともよばれ、原子炉等規制法にある運転期間の定めを電気事業法に移して原発の60年超の運転を許すのが主なものですが、同時に原子力基本法の改定案も出ています。

改定案をみると、電気の安定供給の確保、脱炭素社会の実現などのために原子力を活用することを、国の責務として盛り込むとしています。「国の責務」とすることは、税金を原発推進に投入し、原子力産業を救済することを意味します。巨額の税金を投入して原子力産業を救済し、再処理・核燃料サイクルを含む全面的な原発推進を図る、危険きわまりない内容です。

交渉では、このような法案が、突然出てきた経緯が問題になりました。原子力基本法改定の話は、公開の場での議論はなく、年末年始のパブコメにもありませんでした。表立った動きは、原子力委員会で検討された「基本的考え方」のパブコメを決める段階で、委員長が「基本原則については法令に記載することが望ましい」との発言があっただけです。今年2月です。しかしこのような重要な改定作業がここから開始されたとはとても思えません。

誰がいつ、どのような場で検討したのか、検討の記録を公開するように求めました。内閣府は、検討はGX会議が開かれた昨年7月末ないし8月末くらいから行われていたと思われるが、担当者の頭の中にあっただけで記録はないと回答しました。そのようなわけはありません。国会でも追及されていますが、この場でも記録を公開するよう求めました。

国民からの意見聴取の機会も公開の議論の場も全くないことも問題です。改定案は、内容的には、エネ庁の審議会の場で、原発を持つ電力会社が要求したほぼそのままです。その点も問題です。