福島第一原発の排水路から基準を超える汚染水が外洋に流出していた問題で、原子力規制委員会は2014年2月に、排水路の水も液体廃棄物と同様に規制の対象にするとの規制要求を行っていました。

K排水路で告示濃度基準を超える放射能が観測されたことを汚染水WGで報告

K排水路と呼ばれる1~4号機の山側から外洋に通ずる排水路において、告示濃度限度を超える放射能が観測され、東電は、2014年1月24日の第10回特定原子力施設監視・評価検討会汚染水対策検討ワーキンググループ(汚染水WG)の場で説明していました。原子力規制委員会が設置した会合です。

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第10回汚染水ワーキング会合資料より(K排水路の測定結果は9ページ)
http://www.nsr.go.jp/data/000051258.pdf
告示濃度限度 Cs-134:60 Bq/L、Cs-137:90 Bq/L、Sr-90 : 30 Bq/L、H-3:60,000 Bq/L

東電はこのとき、排水路周辺を除染するとの対応方針を示しました。規制委側は、排水路出口を外洋から港湾内に付け替える提案をして、東電は「検討します」と回答しています。しかし排水路付け替えの方針は消えてしまいます。

その後、2014年2月14日の第18回特定原子力施設監視・評価検討会(汚染水WGの親検討会)において、東電は、平成26年度中に、排水路周辺の除染を実施すること、特に線量が高い2号機の山側については先行して除染を実施するとの計画を示しています。この計画は、原発の敷地境界での1ミリシーベルトの線量制限を達成するという規制委側からの規制要求にも関係しています。

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第18回特定原子力施設監視・評価検討会での東電提出資料より

規制要求(原子力委員会決定)で排水路の水は液体廃棄物同様に規制対象にすると宣言していた

規制要求の具体的な内容は、2014年2月26日付の原子力規制委員会決定にありますが、その中に、「排水路の水を含め濃度及び量を把握でき、排出を制御できる水全般について、上記実効線量の規制対象である液体廃棄物と同様に扱う。」との記載があります。排水路の水を規制対象にすると宣言しているのです。

東京電力福島第一原子力発電所敷地境界における実効線量の制限の達成に向けた規制要求について(平成26年2月26日原子力規制委員会)
http://www.nsr.go.jp/data/000051274.pdf
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検討会では、放射能の測定についても議論になりました。規制委側からは、放射能濃度だけでなく、流量も測定すべきなどの注文がでました。東電は2014年4月以降、K排水路の放射能レベルを連続で測定していました。東電はこれにより、降雨のたびに放射能レベルが上昇し、特にレベルの高いK排水路では、告示濃度限度を超えることがたびたびあったことを確認していました。

東電は除染がうまくいかないことを規制委側に伝えていたが規制委側はデータを確認せず

排水路周辺の除染について、東電は排水路にふたをする作業や、山側の除染は予定通り実施したようです。しかし線量は下がらず、東電は、建屋側からの汚染水の流入が疑われたが、現場は線量が高く、そのままにしていたようです。以上のことを東電は、規制委側の現場の担当者に伝えていました。しかし、規制委側は、測定データを一切要求せず、データの存在すら確認していませんでした。これは、最近、2015年3月4日に行われた第32回特定原子力施設監視・検討会での規制庁金城慎司福島第一原発事故対応室室長の発言に基づくものです。

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第32回特定原子力施設監視・評価検討会 (平成27年3月4日)

http://youtu.be/nfJiNdKtGWc?t=6m(原子力規制委員会YOUTUBE動画へのリンク)
(開始6分後あたりから)この間の経緯を金城室長の説明→データの把握についてエネ庁→東電松本部長の説明

金城氏は、2014年12月の検討会で、定性的なことは聞いていたが、定量的なことは聞かなかったと釈明していますが、これだけのことを聞けば、東電が放射能レベルを測定していたことは容易に推察できたはずです。測らなければ、除染しても線量が下がらないこともわかりようがありません。金城氏は、東電から非公開のヒアリングを7回行ったと述べていますが、なぜデータについて聞かなかったのでしょうか。

東電は、3月4日の検討会で、測定は現場判断で行われ、上層部には伝わらず、規制委側と接している者にも伝わらなったと説明しました。しかしよくきくと、知らなかったのは連続的に測定されていることであり、除染の前後には測定されているものとの認識があったとしています。

その上、規制委はこのとき、排水路の汚染水についても規制すると宣言していたわけですから、放射能が告示濃度限度を超えていたのか否かについては、確認しなければならない立場にありました。データの確認を行わず、1年近くも放置していたことは非常に問題だと思います。

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第32回特定原子力施設監視・評価検討会 (平成27年3月4日)東電提出資料

規制対象にすると言うだけで放置の無責任

金城氏は、「東電がデータの整理中と答えていたので待っていた、排水溝近くののり面をカバーで覆ったり、除染するなど汚染源を取り除いてきたのを確認してきた」と釈明した(2/26付東京新聞)とのことですが、これは3月4日の検討会での発言と矛盾します。

田中俊一委員長に至っては、25日の記者会見で「排水溝は雨水などがあり、コントロールできない、放置していたわけではなく、会合で議論していた。(規制委に)責任問題は全くはない。」と述べた(2/26付東京新聞)ということですが、これは、自ら定めたはずの規制要求(原子力規制委員会決定)を全く理解していないようです。雨水であろうと、排水路に入ればコントロールできるので、液体廃棄物として規制する」と宣言しているのです。その場合には、告示濃度限度を超えた放出を確認せず、監督を怠った責任は原子力規制委員会にもあるのです。