島崎氏指摘の地震動過小評価問題の続報です。

元原子力規制委の島崎邦彦氏が、原発の基準地震動で用いられている「入倉・三宅式」には過小評価があり、他の式を用いて再評価すべきだと指摘している問題で、指摘を受けた規制委は規制庁に再計算を指示し、その結果が7月13日に公表されました。これに対し島崎氏は納得していないと反応。規制委は7月20日の会合で、再度協議を行うことを決めました。

<自らの再計算をなかったことにしたい規制委>

上記の流れからすると、再協議は、島崎氏の意に沿い、より厳しい値を求めるために行うよう思われる方がいるかもしれませんが、実際はその逆です。島崎氏の意に反し、規制庁が行った再計算は過大評価だったし、再計算そのものをなかったことにしようと動いているのです。

<再計算の二つの結果>

島崎氏は、規制委に対し、「入倉・三宅式」には過小評価があるので、他の条件は変えずに式だけ入れ替えて計算して欲しいと要請しました。規制庁は、「入倉・三宅式」に変えて、原発では津波の震源評価で用いられている「武村式」を用いた再計算を実施しました。その結果は以下の二つの事柄を含んでいました。

1)大飯原発の基準地震動について「武村式」で計算すると、地震動は1.8倍になる。
2)大飯原発の基準地震動について「武村式」で計算すると、地震動は644ガルとなり、基準地震動の856ガルを下回る。

<規制庁は計算の条件を変えていた>

規制庁は 2)の結論を強調しますが、1)と 2)は明らかに矛盾します。規制庁は以下の2つについて、関電が行った計算と条件を同じにしなかったのです。

大飯原発_規制庁のズル

a) 計算のベースになる「入倉・三宅式」での計算結果について、規制庁は関電の計算結果よりも小さい値を用いた
b) 関電の基準地震動には「不確かさの考慮」による上乗せがあるが、規制庁の再計算では、式の入れ替えが不確かさの考慮だという理屈で、上乗せをしなかった。

結果として、2)の結論になったのです。

島崎氏は、上記a) b)について批判し、関電が行ったのと同じ条件で計算すると、大飯原発の基準地震動は約1550ガルに達すると指摘しています。島崎氏は、規制庁の行った計算のうち、1)については積極的に評価しているのです。

<「1.8倍」を規制庁が導き出した意味>

今回の再計算で重要なことは、「入倉・三宅式」を「武村式」に置き換えて計算すると、地震動が1.8倍になるという結果を、他ならぬ規制委・規制庁が導いた点にあります。「入倉・三宅式」が過小評価であり、津波の震源想定で使われている「武村式」を使うべきだという指摘は、大阪の「美浜の会」により、早くからされており、その場合、基準地震動は現状よりも相当に大きくなるとの指摘もされていました。これを今回は規制当局自らが行い、1.8倍になると明確な数値を示したのです。

<大飯原発・美浜原発はクリフエッジを超える>

この1.8倍を用いると、大飯原発の基準地震動は、クリフエッジ(崖っぷち)である1260ガルを超えて1550ガルに達します。クリフエッジ(崖っぷち)というのは、福島原発事故直後に当時の原子力安全・保安院の指示で計算されたもので、もうこれ以上の地震には耐えられない限界値です。これは他の原発でもすぐに応用できます。7月27日にも設置変更許可のための審査書案が出るとされている美浜原発では、993ガルの基準地震動が、約1800ガルにもなり、やはりクリフエッジを超えます。40年超えの寿命延長などとても認められません。

このような1.8倍のパワーに恐れをいだいた田中委員長他の規制委・規制庁幹部が、規制庁の再計算そのものを葬り去ろうとしているのです。再協議というのは、おそらくは計算を行った規制庁技術部(旧原子力安全基盤機構)の現場を説得するということではないかと想像されます。

<島崎氏との会談でも自らの再計算を否定する規制委側>

このことは、7月19日に行われた、島崎氏と田中俊一委員長他、規制委と規制庁との会談もわかります。2回目の会談は、ネット中継が行われ、録画で見ることができます。会談の冒頭は不可思議な光景でした。

島崎氏は、規制庁が実施した再計算について、非常によくやってくれた、要請した通りのことをやってくれた、と述べ、これに対し、規制委・規制庁側は、いや、この計算結果は無理に無理を重ねたもので、信頼できるものではない、と必死に自己否定しました。これが儀礼や謙遜でないことは、同じようなやりとりが何度も続いた後、規制庁櫻田部長が「見解の相違だ」と述べ、規制委田中委員長が「やってはいけないことをやった」と述べたことからもわかります。

<全国の原発で基準地震動を「武村式」で再計算を>

規制委は自らの再計算結果に基づき、大飯原発、美浜原発3号機の再稼働を断念すべきです。再計算を葬り去ろうというのはあまりにも無責任で許されざることです。川内原発を停止し、伊方3号機の原子炉起動を中止し、全ての原発の基準地震動を「武村式」で再計算すべきです。

(阪上 武/原子力規制を監視する市民の会)