9月9日に行われれた政府交渉の報告です。
以下(美浜の会HP)からご覧ください

http://www.jca.apc.org/mihama/saikado/rep_govneg160909.pdf

原発の地震動・耐震性

原子力規制庁からは、PWR担当の片野氏(統括係長)、地震担当の岩田氏(管理官補佐)と鈴木氏(係長)の3名が対応しました。

まず、島﨑邦彦氏による、原発の地震動評価に用いられている入倉・三宅式は過小評価をもたらすので用いるべきではないとの提言に関して、規制庁の7月27日文書に即してやりとりをしました。

<武村式を適用すると矛盾が起こる問題は未解決>

規制庁は、大飯原発の基準地震動について、入倉・三宅式に替えて武村式を用いた試算を行い、短周期レベル(加速度)で1.52 倍、基準地震動(加速度)で1.81倍になるとの結果を導きだしました。しかし、試算にはさまざまな矛盾があるとして、7月27日付文書で、試算そのものに意味がないとし、政府交渉でもそのような説明がありました。7月27日文書には、「科学的・技術的な熟度には至っていない」との文言が結論部分にあるのですが、これの意味を問い質すと、推本レシピにおいて武村式を適用するとさまざまな矛盾が起こるという問題は未解決であることを認めました。

<入倉・三宅式の過小評価はカバーしていた!??>

同じ文書に「入倉・三宅式が他の関係式に比べて、同じ断層長さに対する地震モーメントを小さく算出する可能性を有していることにも留意して、断層の長さや幅等に係る保守性の考慮が適切になされているかという観点で確認してきている」と、過小評価を断層の長さなどに係る保守性の考慮でカバーしてきたように書いてある部分があります。私たちは2013年から入倉・三宅式の過小評価を指摘し、武村式で評価するよう要求していましたが、規制庁は対応しませんでした。それに地震モーメントの大きな違いを一体どうやってカバーするというのでしょうか。私たちは検討の中身を問い質しましたが、何も答えられませんでした。

<自ら「ブラック・ボックス」と認める>

規制庁が試算において、関電の計算結果を再現できなかった点(入倉・三宅式を用いた基本ケースで、関電 596 ガルに対し、規制庁 346 ガル)について、その原因は、要素地震波の生成と合成のやり方が違うとの説明でしたが、具体的に何が違っているのか、関電から計算方法を聞いて再現する作業はやっておらず、やるつもりもないとの回答でした。詳細は「ブラック・ ボックス」だが、関電の方が値が大きいからよいのだとも。しかし関電の評価結果について、その根拠や評価方法の詳細を確かめずに、その結果を容認することが正当な審査と言えるのでしょうか。どうみても審査の責任放棄です。市民側は、関電の計算結果を再現する作業を行うべきなどと指摘し、再度検討するよう要求しました。

<武村式で不確かさを考慮しないのも根拠なし>

規制庁が試算において、入倉・三宅式では基本ケースに加えて不確かさを考慮したのに対し、 武村式では基本ケースしか計算しなかった件については、「武村式で計算すると地震モーメントが大きくなるので、そこで不確かさは既に考慮されている」との無茶苦茶な回答でした。

<原発の地震動評価について熊本地震の検証を>

熊本地震の検証については、一般的に学術分野での知見を待つというだけでした。島﨑氏の提言は、熊本地震のデータに照らして、原発の地震動評価で用いられているやり方では過小評価となるとの指摘でしたから、これを否定するのであれば、熊本地震のデータに即して、地震前の情報から、いまの原発の地震動評価のやり方で、熊本地震の揺れが再現できることを示さなければならないはずです。

<くり返しの揺れは考慮せず>

耐震評価において熊本地震であったようなくり返しの地震を考慮していない件について、設備や機器の金属疲労の影響については、通常運転時の熱影響や地震による応力による影響を足し合わせる形で疲労累積係数というものを計算し、これが1を超えたら不合格という評価を行っていることを確認した上で、地震の影響については、基準地震動1回分しか入っておらず、 余震の影響は考慮されていないことを認めました。市民側は、余震によって許容基準を超える可能性が生じる以上、そのことを審査の中で評価するよう強く求めました。
/原子力規制を監視する市民の会 阪上

原発の避難計画・避難訓練

対応したのは原子力規制庁核物質防護課 3 名(柿崎氏、川井氏、加納氏)と内閣府防災訓練担当 2 名(坂口氏、橋本氏)。市民側は、熊本地震の実態と、8月27日の防災訓練の実態に基づき政府を追及しました。福島原発事故や熊本地震の被害に学ぼうとしない国の姿勢が浮かび上がりました。

1.熊本地震を踏まえて、「屋内待避」を中心とする避難計画等について

<規制委は熊本地震を踏まえた検討もなしに「屋内退避」方針に固執>

熊本地震を踏まえ市民側は、地震と原発事故の複合災害が生じた場合に、「屋内退避」を基本とした原子力災害対策指針では住民の安全を守ることはできないのではないかと追及しました。これに対し規制庁は、自治体設定の避難所に避難、それが駄目な場合は別の避難所に避難していただくと述べ、「屋内退避」方針に固執。熊本地震を受けて規制庁としてどう検討したのか、どこで決めたのかと追及したところ、この問題で規制委員会は開いておらず、規制委員会としての判断はしていないことを認めました。規制庁の関係部署で方針を変えなくて問題ないか確認して田中委員長にあげ、委員長が国会で「屋内待避」の方針を変えないと答弁したとのこと。熊本からの参加者は、「規制庁は現場をご覧になったのか」と問い、視察にも行っていないこ とが分かると、「余震が 2000 回来ている。屋内退避などできません!」と断じました。市民側は、検討したという部署のリストと、そこでの検討結果を示すように要求しました。

2.8 月 27 日の福井県・京都府等での原子力防災訓練について

<「規制委は、服用の明確な基準はもっていない」と認める(規制庁)>

訓練当日、福井の UPZ 圏住民には、安定ヨウ素剤に見立てたアメ玉が配布されました。しかし、服用指示は出されず。訓練当日には、町の職員は「田中委員長から指示が出たら飲む」と話していました。服用指示が出されなかった理由を質したところ「規制委員会も田中委員長も訓練には参加しておらず、今回は服用指示は省略し、配布のみ行った」(内閣府)と回答。放射性ヨウ素から子どもや住民を守るために安定ヨウ素剤の配布・服用は最重要なもの。おおい町 住民は、服用指示を受けるのも大事な訓練ではないのですかと批判しました。京都府住民の一部には服用指示が出たことは「知らなかった。確認したい」と述べていました。 国の指針では、5キロ圏外は「規制委が服用の必要性を判断する」となっています。では服用の具体的な基準とは何か?と問いました。すると「服用の明確な判断基準は持っていない」と驚く回答。「専門家の会合を開いて・・」と言い出すので、「専門家とは誰ですか」と問うても答えられません。5 キロ圏外も、事前配布と避難時に服用すると指針に明記すべきです。

<代表者を選んでのスクリーニングとは、(車内で一人ではなく)行動が同じグループの代表>

防災訓練では、国の指針等にならって、バスの同乗者から一人を選んで「代表者検査」が行われました。この代表者が汚染なしなら、同乗者全てが汚染なしとなります。これについては、「行動が同じグループの代表という意味の代表者検査です」(規制庁指針担当)と述べたので、 今回の福井県のやり方では、事実上ダメだということになります。

<人のスクリーニングは「屋内でやるのが原則」→福井県はマニュアル違反>

福井から兵庫に避難する訓練では、舞鶴若狭高速道路の綾部PA(あやべ球場駐車場)で、屋外にテントを張って住民の検査が実施されました。京都府は屋内での実施でした。これについて規制庁は「屋内でやるのが原則」と回答。当然のことです。福井県は国の「検査・除染マニュアル」に違反しています。この綾部PAは高浜原発から30キロ圏内で、バックグラウンドも高く不適切ではないかと問うと、「その場合はここではできない。他を探すが決まってはいない」との無責任な回答でした。

<スクリーニング場所は「一方通行でやる必要あり。福井県等は検討すべき」と回答>

綾部PAは、高速の緊急開口を開けて入りますが、そのゲート幅は5メートルしかなく、車両の対面通行は無理です。そのため、検査前の車と除染後の車が、交通誘導で交互に出入りするやり方でした。入口と出口が同じでは、除染しても意味がありません。「車両や住民の移動を一方通行にする」という規制庁のマニュアルに反するのではないかと問うと、指針担当者は「一方通行でやる必要がある。福井県等は検討すべき」と答え、今回の訓練はマニュアルに反していることを認めました。綾部PAと南丹市美山の長谷運動公園も入口と出口が同じです。「福井、京都に働きかけて選定を考える」(規制庁)と述べました。南丹市からの参加者は「2ヶ所とも不適格。別の場所が確保できない間は、再稼働はするべきできない」と訴えました。

<若い女性職員が参加→「女性職員は外すべき」(内閣府)>

訓練では若い女性職員がマスクもなしに、誘導係等で参加していました。これについて「教育の一環として参加してもらっ た」(内閣府)との回答。「それなら実際の事故時には、女性職 員は外すのですね」と問うと、「そうなるべきだ」(内閣府)。福島原発事故で浪江町から避難している参加者は「防災訓練 は緊張感もなく茶番だ。放射性物質からの避難だということを曖昧にしている。若い女性は放射能に感受性が高いから誘導係をしてはいけないと教育すべき。今回の訓練は福島の被害者を無視している」と厳しく批判しました。
/美浜の会 増田