「規制の虜」再び…「未知なる劣化」は審査では対応不可
山中委員長は、昨年10月以来、運転期間がどんなに延びたとしても、その時点で基準に適合しているか否かを判断し、適合していなければ運転継続を認めない審査制度により安全の確認はできると述べてきました。その際、立証責任は事業者にあり、事業者が十分なデータを出す必要があるとしてきました。
ところが今(いまごろになって!)原子力規制委員会が開催している老朽炉の安全規制の検討会合※1において、既に認知されている劣化への対応だけでよしとするのは新たな「安全神話」に陥る可能性があるとし、未知なる劣化を見つけ出す活動が必要だとしたうえで、それを審査の形で行うのは困難だという議論が行われています。それに代わる結論は、事業者やメーカーとの「対話」です。
老朽化した原発の点検や審査は、想定すべき6つの劣化事象が定められていますが、そこから外れた劣化については、事業者が自主的に行わない限り審査の対象にはなりません。今年1月に発生した高浜4号機の制御棒落下事故は、電気ケーブルの絶縁低下という想定すべき6つの事象の一つが原因でしたが、初期の施工不良に経年劣化が重なるタイプのもので、検査対象からは外れていました。想定から外れた未知なる劣化への対応は、現実の問題になっているのです。
未知なる劣化は、事故が起きてはじめて発見されることになります。しかしそれでは手遅れになる場合があるでしょう。事故の前に事前に発見されなけば審査の意味がありません。
検討会合における事務局の提案※2は、未知なる劣化を発見するには、事業者が自主的に行う安全性向上活動を評価する制度や、事業者とメーカーの団体が行っているプラントの脆弱性を把握して対策を検討する活動を活用するしかない。その場合には、審査という厳格なものはなじまない、対話や議論の場が必要だというものです。どうすれば事業者が自らのプラントの脆弱性を晒してくれるのか?といったことがまじめに議論されています。
これは、福島第一原発事故で問題となった、規制が事業者に取り込まれる「規制の虜」そのものではないでしょうか。審査による対応ができないのであれば運転期間制限による安全規制を継続すべきでしょう。運転期間を炉規法から撤廃すべきではないことはここからも明らかです。
※1 高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チーム
https://www.nra.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/koukeinenka/index.html
※2 検討チーム第4回会合(4月13日)で提案された「『設計の古さ』への対応の考え方について(案)」…「設計の古さ」(非物理的なもの)への対応がタイトルだが、文書には「『物理的なもの』への対応についても同様である」との記載がある。
https://www.nra.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/koukeinenka/120000003.html
https://www.nra.go.jp/data/000426773.pdf